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現場から帰ってきたばかりで泥だらけの愛機を指差すと三塚は顔をしかめた。「まだ乗ってんのか」と本音が漏れていた。それから彼は鍵が差しっぱなしのそれに跨がりエンジンをかけ何度か吹かす。見積もりのためだけにモノを直接見に来るとは仕事熱心で非常によろしい。「何というか、回転にバラつきがある音しないか」と俺が言うと三塚は溜め息をついた。
「新車買ってください」
「修理業者がそれ言うか」
「ガソリンエンジンのバイクなんてもう直せないっす」
三塚の言う通り、化石燃料を消費する乗り物は工事用車両の一部を除いて製造を終了している。このバイクに至ってはとっくの昔に製造販売は終わっていて、これが現役で動いている最後の機体と思われる。骨董品に跨がっているようなものだ。俺はエンジンを切った三塚に歩み寄る。
「海外から部品取り寄せたりできないのか」
「どこもガソリンエンジンなんか作ってないんすよ」
「ベトナムは」
「5年前に排ガス規制強化されました」
「5年前なら部品ぐらいまだあっぺし」
「どんだけ手間と時間かかると思ってんすか」
「脳と手の媒介者は心でなくてはならないとか言うべし。気持ち、思いやり。手間とかお金とか時間とかじゃないじゃん?」
「何言ってるか全然わかんないし社長人工生命体っすよね?心なんかあるんですか」
「ないこともない」
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