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三塚が頭を掻きながらバイクを下りた。俺に顔を近づけて目を合わせるように見上げた。
「じゃ、それなりのことはしてくださいね」
俺は少しの間の後「わかった」と頷いた。三塚は「一応見積もりは出しておくんで」と言い残し車庫を出た。彼が見えなくなったのを確かめてからバケツに水を汲んでブラシでバイクの車体をゴシゴシ擦った。冬のキンと冷えた空気と水の冷たさで手があっという間に赤くなる。
社員が俺のことを「マシーン」と呼んでいることは知っている。気に入らない先生に生徒が変なあだ名を付けるのと一緒だ。正確には機械じゃないんだよ、等と野暮で大人げないことを言うつもりはない。ただまあ、心はありますよ、そりゃ。そんなことを言われて傷付く程ナイーブでもないけど。
あのふたりとやるの疲れるんだよな。俺は大きく溜め息をついた。竹花とはもう慣れたし何だかんだ優しい。嶺岸は申し訳なさそうにするからまだ許せる。だがあのふたりは遠慮等が一切ない。子どもがアホみたいに玩具を振り回すのと同じ。多分三塚がわざわざ直接これを見に来たのも、セックスを吹っ掛けるためだったのだろうなと考えると、少しでも仕事熱心だなと感心してしまった自分が馬鹿に思えてくる。
それでも、性行為程度と引き換えにバイクのパーツを手配してもらえるなら安いものだ。寒さですっかり感覚のなくなった左手でバイクのロングシートを撫でた。
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