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「何の前置きもなく“大丈夫ですか”と訊ねられて“大丈夫”と即答する人は、大概大丈夫じゃないらしいです」
確かに。「大丈夫」に心当たりがなければ「何故?」と聞き返すかもしれない。嶺岸君にしては強かなことをするな。俺は小さく溜め息をついた。
「休んだ方がいいと思います」
「わかった。上で少し寝て来る」
「たくさん寝てもいいです。有給は俺が入力しておくので」
「うん。よろしく」
廊下をノロノロと歩きエレベーターを使って社長室まで行った。毛布を引っ張り出し大き過ぎるソファに横になった。亀卦川にもああ言われたし薬は飲まずに大人しく眠ろう。薬代で会社を圧迫したくはない。
端末の画面に映されたデータを思い出した。早期退職。まだ50歳にもなっていないのに。これからどうやって生きるつもりなんだあいつ。役目を終えても人生は続く。俺もいつかこの役職を退いてのんびり余生を過ごしたりするのだろうか。というか、俺はこんな身体で死ねるのだろうか。
ちゃんと死にたいな、と零した。窓の外は小さな雨粒がパラパラと降り始めていた。
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