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第二種指定怪奇種 好蟻性昆虫
「25時」という呼び方は違和感を覚えるがいかにも深夜という感じがして好きだ。深夜のテレビ番組の独特な雰囲気、ラジオ番組で繰り広げられるマニアックな話題。くだらない下ネタでも笑えてしまう魔法の時間だ。まあそんな時間に起きられていることなんて俺にはあまりないし、今日の場合は仕事なんだけど。
「遠田署と産業振興課からの情報です」
入社3年目、20代。ピチピチの若人嶺岸青年が俺に駆け寄りそう声を掛けた。深夜突然会社に呼び出されたにも関わらず皺のないワイシャツとスラックスをしっかりと身に着けている。俺が嶺岸を見遣ると彼は続けた。
「怪奇種は町内和多田沼付近の暗所を涌谷方面に移動中のようです」
「負の走光性?ゴキブリだったら俺は行かないぞ」
「それは困ります」
「冗談だ」
「あ、すみません」
謝るな。彼の性格を把握できていない俺の失敗だ。小さく息を吐き「後は俺から連絡を取る」と言いながら噴霧器を背負った。「その格好で行くんですか」と眉を顰める嶺岸。体液まみれの作業服がご不満かと思ったがそういうわけではなかったようで彼は「ちゃんとした装備で行った方が」と付け加えた。
「どうせ直るからいい」
「でも」嶺岸が食い下がる。「痛いものは痛いんですよね」
「そういうの、もうどうでもい」
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