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俺は言ってから自分のデスクに一番近い壁に適当に立て掛けてあった柄が90センチメートルあるバチヅルを掴んで事務室を出た。嶺岸が「あ、社長」と何か思い出した様子で言ったので俺は立ち止まって振り返った。
「この後の同定、俺も見てていいですか」
俺はとりあえず笑って見せた。「いいよ」とだけ答えて再び歩き出した。
125ccの二輪で点滅する黄信号を次々に通過し街灯のない道で止まった。既に警察によって通行止めになっている。ヘルメットを外しリアキャリアに積んだバチヅルを握って「夜分遅くにお疲れ様です」と声を掛けながら規制線を越えた。嶺岸にはああ言ったがじつは怪奇種の見当は大体付いている。先日体長1.5メートル程のクロクサアリを処理した場所とほぼ変わらないからだ。アリを処理すれば済むという話でもなかったようだ。もっとよく見ておくべきだったな。産業振興課からの発信があったので端末で応答した。
「産業振興課青木です。星口さんお世話様です」
企業名で呼ばれただけだが「俺はそんな名前じゃありません」と言いたくなる。基本的に捻くれているのだ、俺は。「お世話様です」と無難に返しておく。
「涌谷方面に逃げた怪奇種ですが、町の境を越えたようで」
「ではあっちの町に任せましょう。こっちはこっちでやることがある」
「他にもいるんですか」
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