25人が本棚に入れています
本棚に追加
「明日からここ完全封鎖するから」と、社長はぼく達に黒い塗料と真っ黒な防水加工のステッカーを持たせた。「駅の看板塗り潰して欲しい」
背の低い男性が顔をしかめた。ぼくは「それJRに任せられないんですか」と言った。
「言い出しっぺ俺だべし、駅員さんいるならともかく無人駅までやってもらうのひどいっちゃ」
「セフレに頼むかよ普通」塗料の缶を抱えながら呟く背の低い男性。ぼくはなんとなく、燃えてきた。この人より早く仕事を終わらせてやるという気分になれた。
「そういうわけなので、俺は東北本線、黒須君は石巻線と気仙沼線、茂太は陸羽東線よろしく」
「陸東?ぼくがですか?」
「そう言ったべっちゃ」
「あれ県外まで続いてますよね」
「んだよー」
「山形まで行けってことですか?」
「んだんだ」と社長はゆったりと頷き自分の分の塗料を直ったばかりの左腕で持った。「じゃ、早速作業開始。プレイボール」
黒須君と呼ばれた男性も文句を言った割には素直に踵を返し「俺の所終わったら手伝うよ」とぼくに声を掛けて歩き出した。ぼくは慌てて黒須の背中を追った。途中までは同じ方向だからだ。
「あのう、黒須さんって」
「俺は社長のことそういう意味で好きになったことないし他にセフレがいようとどうだっていい」と黒須はぼくの質問を先回りするように言った。
「あーやっぱりそうなんだ」
最初のコメントを投稿しよう!