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N-4
「テルー、ちょっといいかー」
年の瀬も近づいた12月の半ば、俺達の部屋に筧先輩の友達の山田先輩がやってきた。
「テルの兄ちゃん、車買ったって言ってたよな?」
「あー? そうだけど?」
「まだ先の話なんだけど、角張中学校まで乗せてくれないかな。あ、もちろん往復で」
「あ? 角張って、どこ?」
「隣の県の三角町ってとこにあるんだけど、アクセスが悪くて」
「まー、頼んでみるけどさ、なんでその中学に行きたいわけ?」
「そこ、廃校になったんだ。それで、5月に備品とかの譲渡会があって、譲渡品のリストをみたら実験器具が色々あるんだよ。早いモン勝ちでタダでもらえるから、我が化学部としては――」
山田先輩は、興奮気味に語る。
「あー、分かった、分かった。兄貴に頼んでやるよ」
「ありがとう! 助かるよ」
「おう。今度なんかおごれよな」
笑い声がして、山田先輩が椅子から立つ気配がした。俺は、思い切って振り向いた。
「あの……今、角張中って言いました?」
先輩達の視線が集まる。
「ん? 翼、知ってんの?」
「はい。父が、そこの卒業生で……」
「君、もしかして土地勘ある?」
「いえ、行ったことはないんですけど、その学校に絵があるって……」
ドキドキしている。まさか、こんなところで父の過去にリンクするとは。
「「絵?」」
「中学生の頃の父を描いた絵が、寄贈されたらしいんです」
「へぇ」
「寄贈か。もしかしたら、その絵も譲渡品の中にあるかもしれないよ」
「えっ!」
「良かったら、君も行ってみるかい? 5月の連休明けくらいなんだけど」
「はいっ! 行きたいです!」
「伸吾、車出すのは兄貴なんだからなぁ?」
思わず椅子から乗り出して食い気味に応えると、筧さんが苦笑いする。
「筧さん、お願いします! 俺、雑用でもなんでもしますから!」
その口元が、してやったりというように歪む。
「ふーん? じゃ、帰省前の部屋の大掃除、任せたぞ」
「うわ、ひでぇ」
「いえっ、大丈夫です!」
家事に関しては全く苦にならない。そんなことで父の絵に会えるかもしれない……あわよくば、その絵が手に入るかもしれないのなら、お安い御用だ。
後日、山田先輩が三角町のホームページに譲渡品のリストが載っていることを教えてくれた。早速、コンピュータ室の共用PCからアクセスすると――。
絵画④ 肖像画 20号(箕尾伯人作・寄贈品)
「あった……!」
思わず、PCの画面に齧り付く。間違いない。これだ。まだ、そこにあったんだ。
『箕尾――先生』。
忘れるものか。父がうわごとのように何度も呼んでいた名前、父の人生を変えた美術教師の名前だ。
こんな形で絵の情報が俺のところに届いたのが運命じゃなくてなんだろう。これは、俺に「取り返せ」という父の遺志だ。絶対、手に入れなくちゃ。
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