59 守将

1/2
前へ
/136ページ
次へ

59 守将

背後に川、前方に迫る敵……べつに背水の陣という言葉を体現したいわけじゃない。ただ?水?がそばにあるので、私という()が生きてくる。 「始源(マナ)よ、百千(ももち)たる鋭刃の水輪となりて、其を轢断ぜよ」 5歳の頃にこれをぶっ放した時は爽快だった。今は魔力を10分の1程度に抑えられているが、それでも魔力総量も瞬間的な出力もあの頃よりはるかに上……。 「〝百車水輪〟(バーリヒ・バルミルド)」 その名のとおり激しく渦巻く水の円環が縦に回転して疾走していき、魔人の先頭集団を呑み込んだ。 「皇子、ウェイク、ミラノ!」 止まらない場合もいちおう想定してはいたが、可能性は低いと思っていた。馬は潰れたのに迫る勢いがひとり止まらない大男の右拳を皇子の磁気盾が受け止めると双方、大きく仰け反った。 「オラオラオラオラオラオラァァァァァッ!」 隙が出来たところにウェイクが連撃(ラッシュ)をかける。右に左に大男の頭が吹き飛ぶが、巨腕ではない普通の左拳でウェイクを吹き飛ばす。 「いってぇぇ……この化け物が」 魔力が抑えられているのにふたりとも充分すごい。 ふたりが時間を稼いでくれたおかげで私に次ぐ魔法の使い手ミラノの魔法が完成した。 空気球(エアバルーン)──相手を倒すための魔法ではないが、この状況下において、すごく有効的で智者と誉れ高いミラノらしい魔法。 黄色い丸い球に大男は包まれると、ゆっくりと上空へ浮上していく。ゴムのような性質があり、中からどんなに強烈な打撃を加えてもまず割れない風系魔法の中でもかなり異質な部類に入る。 3人が大男の相手をしてくれたので、私は前方奥に残っている魔人をハチの巣にするべく二重奏(デュオチャント)で詠っていたもうひとつの魔法の詠唱を綴り終えた。 〝連射水弾〟(ウォーターガトリング)──毎分200発の当たれば四肢が吹き飛ぶ防御不可能な水系上位魔法で使い手泣かせな高難度の魔法として知られている。今の私の魔力では消耗が激しく使用不可な高出力魔法だが背後に川があったのでうまく使えた。きっかり2分間連射を続けたあと、後方で呻いている魔人の残りを突撃して狩りつくした。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加