60 魔王の正体

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60 魔王の正体

ばっちりなタイミングで遠くで火の手が上がる。 「こんなところで油を売ってていいの?」 「ひとり潜ったところでなにができるのさ」 「これでも?」 深い霧のなかで私の背後にいた人間がすべて白い煙となって霧散していく。 「私は囮ってわけ」 深い霧が立ち込めているのは私の魔法によるもの。背後に魔法で作った人間そっくりのダミーを立たせ、本隊は霧に紛れて裏門へと向かった。魔人の伝令役を捕らえて伝令に関する情報を自白洗脳術で引き出し、その伝令に変身したオポトは1日前にすでに魔王城の城下町に潜伏して、裏門の開門を手引きした。 今ごろ城下内に味方の軍が雪崩れこんでいる。無益な殺生は避けるようお願いしたが、混乱させるためにあちこちに火をつけるよう指示を出しておいた。 「アンタ達、先に行って住民の避難誘導と消火に行ってきな」 魔人の4騎士ナルミは正門を守っていた兵達にそう指示した後、城壁から飛び降りてきた。 「アンタが大将なんだろ? アンタを叩けば決着がつくじゃないか」 「ご名答、でも私は囮は囮でもスペシャルでスーパーかつ美少女的な囮なの」 「何を言ってるのか分からないね」 「これを見れば納得するはず……んく、んく」 ポケットから取り出したのは特殊な簡易転移瓶、それを少し口に含む。あとはこの瓶を割れば事前に同調させておいた転移石の場所へ転移できる仕組み。 「それではさらば、ドロン」 ドロン、と口で言って瓶を割った。──だって1回言ってみたかったから。
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