64 けじめ

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64 けじめ

「キャム・テイラー殿、お初にお目にかかります」 「……誰だ?」 黒ずくめの仮面を被った男、この天幕のある場所は陣の中でもっとも守りを固めている場所で、そうやすやすと入って来れるようにはできていない。 ここは王都デルタの北側に位置し、マガツワタ国とドォルドー国の最前線に近い場所であったが、それも1週間までの話……今は片方が滅び、もう片方は撤退したので、この場所で新生エブラハイム軍を迎え撃つ準備を整えていた。 夜伽用の女と一緒に寝ていたが、女の方はいっこうに目を覚ます気配がない。魔法によるものなのか。 「私は〝管理者(エデン)〟の従者、アナタに選択を与えにきました」 不審な人物に変わりはないが、敵意は感じない。なによりこの男の話は聞いておいた方がいい、と自分の直感が告げている。 「前世の名は瀧亞瑠斗(たき あると)……ギャンブル、借金、女性を騙した複数件の詐欺罪、女性を振り払って堕胎させた傷害罪、会社の金に手を出した業務上横領罪……どうしようもないクズですね」 「てめぇ……なぜそれを」 仮面の男はポラロイドフィルムで撮影したような写真を俺が寝ていたベッドのうえに無造作に数枚、投げて寄こした。 ふたりの女が写っていて、どちらも俺がよく知っている人物だ。 「東雲詩乃さん、今はシリカ・ランバートとしてこの世界に転生していたのをご存知ですか?」 知らなかった。シリカがあの都合のいい女と同一人物だったなんて……。 「まもなく彼女はアナタを殺しにくるでしょう」 なんとなく嫌われている気がしていたが今、謎が解けた。なんだ、そうだったのか……。 俺がいた世界と同じところからやってきたのはなんとなく想像はついていたが、まさか散々食いものにしたあの女だったとは予想できなかった。 「そこで選択肢をアナタに与えます。元居た世界へ()転生するか、それともこの世界で彼女に引き裂かれて死ぬか」 どうやらこの仮面の男はタクシーの車内に置いてあったあの黒い本と関係があるようだ。もう一度再転生、か……。 「いや、やめておく、俺はこの世界に留まる」 「確実に死にますよ?」 世の中ってうまくできてんのな? すべて繋がってんじゃん。俺のやってきた悪事の償いもちゃんとついて回ってきてやがる。 前世ではそんなこと考えてもなかった。チカラのないヤツ、騙されるヤツが悪い。奪う人間側じゃないと人は馬鹿をみる。俺はそうやって生きてきた。 前世でも今のこの世界でも俺の親ガチャ運は最悪だ。だが今なら分かる。そんなのは理由にならない。強いヤツはどんな境遇だろうが強い(・・・・・・・・・・・・・・・・)。アイツを……シリカを見ていて気が付いた。 「俺って乙女ゲーでは悪役貴族なんだよな?」 「それがどうかしましたか?」 これがけじめになるのかは知らねー、だがアイツが俺を殺したいほど憎いなら俺はそれを受け入れる。 「ちゃんと最後まで悪役らしく演じてやるよ」
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