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「これはキャムさま、いかがされましたか?」
「ああ、人質全員を親父のところへ連れて行く……。出せ」
「は、はい、ただいま!」
人質として窓を完全に鉄格子で閉ざした屋敷を見張っている衛兵は夜中にやってきた幻獣殺し、テイラー国の英雄が護衛をひとりもつけずにやってきたことに疑念を抱いた。だが、気性がとても激しく、気に入らない兵がいたらすぐ首を刎ねることで有名なので、恐ろしくて逆らえずすぐに人質を叩き起こしに屋敷のなかへ入った。6人を並べて魔法の縄で縛り、急いでキャム殿下の前に引っ立てた。
「同行いたします」
「要らん。俺を舐めてんのか? 殺すぞ?」
「大変失礼しました。お気をつけて」
恐ろしい。余計な世話を焼いて危うく殺されるところだった。
それにしても先ほどから霧が出てきて月が隠れ、風が強くなってきた。暗い夜道を英雄は人質6人を引っ張り、建物の角を曲がり消えていった。
朝になっても人質を連れて行ったっきり戻ってこないので兵士のひとりが、城へ確認に行くと人質を連れたキャム殿下は城へ来なかったそうだ。
「なんだと? 人質をキャムが連れ去っただと、そんなバカな!?」
キャムの父親は執務室へ報告にやってきた兵士に机にあったペン立てを罵声とともに投げつけた。
キャムは2日前に前線へ戻ったはずだ。それに息子へ人質を連れてこいなんてひと言も命じていない。
「夜直した者たちの首を刎ねておけ……それと捜索隊をすぐに編成しろ」
「は、はい」
人質をどこへやったキャム……。ケーナの花で前線へ連絡し、通信係から代わりキャムが出た。
「はぁ? 俺は昨夜ずっと前線の陣地から一歩も出てないぜ?」
なんだと? 嘘を言っている様子はない。じゃあいったい誰が?
「やられたな親父、それはたぶんシリカ・ランバートの仕業だ」
その昔、研究機関の年寄りと一緒にやってきた童女がいた。なんの冗談かと思っていたが、その幼女がランバート皇子を支えていると最近になって知った。一流の魔法の使い手で学生の域を超えるどころか国内でも並ぶものがいるかどうか怪しいくらいだという情報が入っている。
まさか、こんな敵陣の奥深くへ6人の人質を取り返しに来た?
ふざけるな……たとえ変装して忍び込んだとしても、6人も連れている。そう遠くまで逃げおおせるものではない。
早く人質を連れ戻さないと計画が大いに狂ってしまう。
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