66 贖罪

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これは……。 男は折り紙魔法で飛んできたであろう机の上に置いてあった手紙を手に取る。 文章を最後まで読み終えて、強制魔法のかかった署名欄にサインをすると目の前で蒸発するように消えていった。とてつもない魔力が籠っており、抗えない制約の魔法をかけられた。 男は悟った。けっして戦ってはいけない相手がエブラハイム軍の背後にいると。 これまで自分の犯してきた過ちを糺してくれる存在……きっと自分をこの呪縛から解き放って、積み重ねた罪を裁いてくれるに違いない。 自分の代で外れてしまった道へ戻れる好機、是非もない。 それから手紙に書いてあったとおり(・・・・・・・・・)の3日後、新生エブラハイム軍がデルタ湖北岸にほど近いテイラー軍の目の前に現れた。 男は指示された通りにテイラー軍の複数の部隊長とともに裏切り、テイラー軍を離脱した。 これにより、テイラー軍はあっという間に崩壊し、大将キャム・テイラーは双方ほとんど血を流すことなくあっさりとエブラハイム軍に捕縛された。 「テメーら、よくも裏切りやがって」 「裏切った、わけではありません」 私達は投降したのです。いくら金や利権を握られ、家を乗っ取られた挙句、人質を取られたからといって国を裏切った行為は許されるものではない。だが、手紙の主から我々は裁いてもそれは本人だけ。家族には罪を問わず家も潰さないと約束してあった。 息子のミラノは私と目を合わせようともしない。それでいい。私は裁かれて当然の人間なのだから……。 この子がそうなのか……。まだ若い。ミラノやレオナード皇子とパルミッツ学院に入学したシリカ・ランバート嬢……。噂には聞いていたが、ドォルドー国の首都を消滅せしめ、大軍を火の海に沈めた稀代の魔法使いにして、深い策略に長けた智謀家……なぜこんな娘がこれまで世に出てこなかったのかがとても不思議である。 「うーん、会ったら即●刑にしようと思ってたけど、どうしよっかなー?」 なにやら悩んでいる。この姿だけ見たら年相応のどこにでもいる普通の娘にしか見えない。 「よし決めた! あの胸くそ悪い父親のところへ強制送還」 「はぁ? ふざんけんなッ俺を処刑するならとっとと処刑し……」 その水晶は転移系のアイテム? どこでそんな超高度な魔法で作られたものを手に入れたのだろうか。一瞬でキャム・テイラーの姿を消した。 「まったく……最初から決めてたくせに」 「レオの言う通りだ。ベルルクの街へ出口用の転移水晶を置いてきたのもこのためだろうに」 「さあね、知らなーい」 レオナード皇子と彼の腹心ロニ・ゴットフリートがシリカ嬢へ質問して、彼女はとぼけて周囲のひとが笑っている。その輪の中にはミラノの姿もあった。 そうかミラノ。いい友人たちと巡り会えたのだな……。
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