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──愛した眼は潰れて見えない、輪郭は容易く融け崩れた。肢体は朽ち果て土に還るのを待つばかり。ああ、私も彼らと共に逝けたならば。恒久の孤独でひとり時が行き過ぎるのを待つこともなく、彼らと共に永久の眠りにつけたのだろうか。
震える喉を悲哀が締め上げる。自らの声で叫ぶことも許されぬ私は、ただ、また永劫にも思える時間を独りで過ごすことになるのだ。彼らの存在はひとときの憩いでしかなかったのだと空が昏く笑う。鐵紺の空にはほしひとつ灯る様子もなく、暗澹たる雲の名残ばかりが渦を巻いていた。
私は願った。彼らにもう一度会わせてくれと。
会わせてくれたのならば、今度は私の時間を分けてあげたいと。もう一度会えたならば彼らとずっと過ごしたいと心の底から強く願った。
願った。
願った。
ひたすらに、願った。
数秒にも、数時間にも、悠久にも思える時が過ぎる。
──空は私の願いを嗤うことはなかった。
だが、私に微笑みかけることもなかった。
ぽつり。
ぽつ、ぽつ。
──さあぁ、ざああ。
……初めは、ひとつぶ。
やがてそれは大勢の仲間を引き連れて無慈悲に地を穿つ。彼らの名残が存在することを許さぬように、地のすべてを洗い流していく。彼らを構成していたものが融けて、崩れて、流れていく。地に染み込み還っていく。
『────!!』
それを目の前で見せられた私は喉が張り裂けんばかりの叫びをあげた。自らの仕事も放棄し、ひたすらに、彼らへの弔いの叫びを上げた。
「……?」
……悲嘆に暮れる私を見上げていた子供が、不思議そうに隣の母親に尋ねた。
「ママ、
あの時計はなんで今鳴ってるの?」
母親は私を見つめながら答えた。
「うーん、……壊れてしまってるのかもしれないね。
この時計台はおばあちゃんが小さい頃からあったらしいよ。とっても古いものなんだ、だから調子の悪いところが出てきても無理はないと思う。
……昔から冬になったら毎年この時計台の周りを囲むように雪像が作られて、おばあちゃんが子供の頃からすごく綺麗な眺めだったんだって。冬が来るのが楽しみだったって言ってたよ」
子供を雨に濡らすまいと先を急がせながら、母親は叫ぶ私に背を向けかけて──はたと足を止めてこちらを振り向き独りごつ。
「──でもこの時計台からしたら、冬にしか会えない友達が融けて崩れてなくなってしまうまでの一部始終を見せられてるんだよねぇ。
……大切な友達が居なくなってしまう過程を見せられるのはあんまり気分のいいものじゃないだろうな」
涙の雨は、降りしきる。
弔いの歌は鳴り止まない。
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