詫びも過ぎれば

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──「許してくれないだろうか」と私は問うた。震える声は音の体裁を成すには遠く、また、彼女の怒りを鎮めるにはこのような言葉だけでは到底足りないことも知っている。だが私は無様に許しを乞い続けた。 「許してくれ」「俺が悪かった」「もう二度としないから」。言葉は羅列されたらされるほど重みが無くなるという話を聞いたことがある気がするが、そのようなことは今はどうでもいい。無様だろうが私は足掻き続けた。「許してくれ」「頼む」「許してくれ」。 彼女は怒りに爛々と燃えるまなこを私に向けて黙り込んでいる。許す気は更々ないということだろうか、ああ、次は何を述べたら彼女の怒りが鎮まってくれるんだ?私は数時間前の自分を呪いたくなった。数時間前の自分の愚行が今になって私の首を絞めている。 「そんなに怒ってもやってしまったことは取り返しがつかないだろ」……つい口をついて出た言葉に彼女の怒りは更にヒートアップした。怒りで握り締められた拳は行き場がなく、小刻みに震えている。近寄ったならば奥歯の軋る音すら聞こえてきそうだ。言葉の選択を間違ったことを悟るも、言ってしまった手前あとには引けない。 彼女は唇を戦慄かせ、一言だけ呟いた。 「──……美味しかった? 私が楽しみにしてた限定品のプリン……!!」
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