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「足りないな……まだまだ購買人口が足りない」
白衣の男は虚空に手を伸ばしゆっくりと拳を握りしめた。
彼の部屋は数多の魚類が入った水槽が置かれ部屋の壁にはたくさん海洋生物に関するデータを記した紙がびっしりと貼ってある。彼の前に置かれるパソコンにも海洋生物に関する映像や状況などをリアルタイムで示していた。
まるでどこかの生態研究所のようだが、この男は単に海洋生物の生態を調べてるわけではない。
男はある実験の成果を求めている。
「俺の計算ではそろそろ、最初期にアレを食べた人間達の身体に変化が起きる筈だ」
新種の海洋生物として瞬く間にこの日本に広がり、僅か数ヵ月で新たなる海の美食となった自分の実験材料がどう捕食者(人間)達に反応するかを……。
「ネットが発達した現代、流行は繰り返し起きるのは常識となったがそれでも全国規模での流行にはまだまだ難儀だな。まぁいい……確定要素も不確定要素も含め証明される……」
『俺の実験が正しいかどうかを』
笑いながら白衣の男は水槽に餌をやった。
……
…………
………………
……………………
高校3年生の黒井大地は、朝食を食べながら両親と一緒にテレビを見ていた。
女性アナウンサーが笑顔でハキハキと喋る。
またこの話題か……。
近頃朝はどこの局もこの話題で持ちきりだ。
『はい、それでは今話題の新魚類!新たな海産品としても名高いマリールについてご紹介致します』
数ヵ月前新たに日本のある川で発見された新魚類マリール。一匹目のマリールが発見されたあと海洋学者や生物学者を驚かせる程の激震が生物界に走った。
最初、淡水で姿が確認されたことから川のみに生息するものと見られたのだが……なんと、その後に日本海や太平洋側、ひいては深海にまで姿を現すことが判明したのである。
流石に手足が生え、陸を歩くのは不可能だがこの異常な適応力には色んな学者が舌を巻いた。
生物界に全く詳しくない大地も数ヵ月前のマリールが見つかり、その後様々なところで発見されたと報道を見た時の学者の緊迫感から只事ではないと痛感した。
しかし、その異常な適応力のマリールも今では人間の食卓に並ぶおかずに過ぎない。
魚を生物学的観点で視るのは学者のお偉方だけ、大量に繁殖し毒もなく珍味と分かれば庶民は食べることにしか興味がないのだ。
黒井家では……
「あら、またマリールちゃんのニュースをやってるわ。感謝感激あなたが見つかって食費が浮きました!」
母はこんな感じだし。
「マリール様!。おかげで体重が減って中年太りと妻にどやされることもなくなりました!」
……父もこんな感じだ。
両親にはぁ、と溜め息をつきたくなるがこのマリールが人に様々な恩恵を与えてるのは事実。
絶賛今、食べてる最中の大地もこんなに旨い魚(食い物)は18年生きてて初めてだ。
安価で旨くて健康への効能もあるマリールが流行ったのはある意味当然と言える。
「ふぅ、食った食った。じゃあ行ってくるわ母ちゃん父ちゃん」
「行ってらっしゃい大ちゃん!」
「気をつけてな~」
ヘイヘイ、と適当に返事し大地は家を出た。
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