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「マニキュアよりおまえに似合うもの、探してやるよ」
彼はマーケットの中を歩きだした。へんな男。
彼に背を向けて、出口に向かった。体格のいい黒人のガードマンがジロリとにらむ。今日はなにもかすめ取ってないよ。私は堂々と外へ出た。
月曜の昼下がり。パーキングロットは空間をもてあましている。青い空。揺れるパームス。いつもの風景だ。あの男はどうしたかな? 振り向いたけど、姿は見えなかった。
何者なのだろう。「英語はしゃべりたくない」と言っていた。観光客? それにしては、身軽な感じだった。
もう一度、マーケットの中をのぞいた。大きなスーパーマーケット。入口にあるドーナツ屋の甘い匂いから始まって、出口付近のマガジンコーナーまで、ゆっくり見て回れば、一時間は費やすことができる。
学校が終わるといつもここに来る。私を受け入れてくれる、たった一つの活動場所だ。ジュニアハイスクールでは、今ごろ放課後の活動が続いているだろう。
サッカークラブ、マーチングバンド、エトセトラ。私はどこにも所属しない。私には、友だちがいない。
5歳の私。プレスクールが私にとって最初のアメリカ。積み木で遊ぼうとしたら言われた。
「No!It's mine!」
意味のわからない言葉とその激しさにかたまった。
そのうち、耳から入る英語を身につけ、気分はすっかりアメリカ人。みんなと同じだと思うようになっていた。けれどもそれは間違いだった。
6歳の私。エレメンタリースクールに入っても、みんな敵だった。先生の質問に答えると「No!」という声が飛んでくる。そのあと、誰かが流ちょうな英語で答えを言う。同じじゃないか。私の答えと同じなのに、いったい何が「No!」なのか。
自分自身を否定されているような毎日。あの時点で心を閉ざし、今に至る。
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