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―― LAでまさかの雪が降る異常気象。
ネットニュースで流れた小さな記事。
あのときも、まさかの雪は降っていた。
かすめ取るものなんて何でもいい。私は赤いマニキュアに手を伸ばした。
「ニアワナイ」
背後で声がした。指先が凍りつく。
「似・合・わ・な・い」
ゆっくりと繰り返された言葉は日本語だった。行き場を失った右手をひっこめ、声の方向に顔を向けると、背の高い男が私を見下ろしていた。白いTシャツにジーンズというシンプルクローズ。銀縁のメガネの奥のまなざしが、私を威圧する。
負けるもんかと私もにらみ返す。
相手は私より年上。二十代半ばだろうか。
「I don't understand your language.」
――あなたの国の言葉はわからない。
私は、彼の言葉を受け付けないことで抵抗した。しかし、
「おれ、今、英語はしゃべりたくない」
戻って来た日本語に、つい、
「Why?」
と聞き返し、彼はニヤッと笑った。
「やっぱり、日本人だった」
私みたいなの日本人って言えるだろうか? ロサンゼルスで暮らして10年。4歳まで育った日本のこともあまり覚えていない。
「おまえ、中学生? アメリカじゃ、香水、ピアス、なんでもありだもんな。日本の中学生のほうが、もうちょっとマシかな。マニキュアなんか、なんで必要?」
日本語がわからないわけじゃない。でも、こんなにペラペラしゃべられると面倒くさい。私の脳みそは英語で形成されている。
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