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冥界で野宿など、めったに体験できるものではない。暗く冷え冷えとした死の国で、腹を満たすべく夕飯を作る。地上で獲った肉、手持ちの調味料、あとは近くの川の水をよく煮沸して、それらを鍋でコトコト煮込む。最後にといた卵を流し入れて蒸らせば、かき玉汁の完成だ。透き通った透明なスープの中で、ふわふわの卵がゆらゆら泳ぐ。肉はやわらかく、シンプルな塩味が素材の味を引き立てる。
ところで、この肉と卵は何の生き物のものだったか? 一口食べたら忘れてしまった。
また一口。私はどこへ行こうとしていたのか?
もう一口。ここは冥界のどこなのか?
……川。一体あの川は何なのか?
記憶は見えない流れにさらわれて、虚無の中へと溶けてゆく。
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