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プロポーズは突然に
お付の人がキラキラしい馬車の扉を開けて、降りてきたのは王子だった。
舞踏会のときよりは落ち着いた服だけど、下町じゃ目立つ。
例えるなら巣鴨のおじいちゃんおあばちゃんだらけの人混みに、ハリウッドスターが飛び込んだみたいな感じ。
「その髪、背格好。貴女は間違いなくあの日の娘だね、シンデレラ。仮面の下にはこんなに可愛らしい顔を隠していたのか」
王子はにこりと微笑んで、とっとこさんをアタシに手渡す。
とっとこさん、捨てたのに戻ってくるなんて呪われた装備か。
「スミマセン、開店準備で忙しいのでお引取りください」
「貴族の娘たちなら、僕が声をかけるだけで大喜びするのに。露骨に嫌な顔をするなんて君が初めてだよ」
言葉に微妙なトゲを感じる。
「少女を見つけたら婚約を申し込む、ここまで公表しても名乗り出ないし、なぜなのかな」
「王妃になりたくないからです。お引取りください」
「王妃になれる誉れはいらないと」
「王妃はきちんと外交や語学を学んでいる貴族から選ぶべきです。アタシのようなバカな庶民には務まらないので遠慮します。お引取りください」
ここまでハッキリ断ると言っても引き下がってくれない。なんなん。
王子笑顔のまんまだけど、なんかオーラがどす黒くなっていく。
「金と権力に媚びないその姿勢、ますます気に入った。君は庶民にしておくには惜しい。外交も語学も結婚してから学べばいい。僕の妻となってともに国を支えてくれ」
詰め寄られて、後ずさった背には店の外壁。
ううぅ、マンガでよくある壁ドン。自分がされる日が来るなんて。
どんなにイケメンでも、好きじゃない人だとトリハダものだ。
「そこまでだ」
ライリーがアタシを引っ張り出してくれた。
なんだかいつもより険しい顔をしている。
「レイラが何度も言っているように、開店準備中なんです。時間を改めていただけませんか」
「この子が僕の求婚を了承すれば、この瞬間からここで働く義務はなくなるだろう。店主、そちらこそ邪魔をしないでもらおうか」
こんだけ断る、帰れって言っても、まだ求婚を受け入れてもらえると思ってんのか王子。心臓がダイヤモンドでできてるのかな。
「あなたの求婚を了承する日は一生来ないのでお引取りください」
「……そうか。では明日も来よう。人の心はうつろうもの。今日の決意も明日には変わっているかもしれないだろう。また明日、シンデレラ」
もう来なくていいのに。
明日も来ると言って王子は再び馬車に乗り帰っていった。
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