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「……アタシに言ってます?」
「そう、君に話している。せっかく出会えたんだ。1曲踊ってくれないか?」
「スミマセン。アタシはただの庶民なので、踊れません。ダンスのお誘いなら他の方にしてください。場違いだし、今すぐ帰ります。王妃探しガンバッテくださいね。それじゃ」
「ちょ、待ってくれ」
早口で挨拶して走り去る。ガラスの靴がかたっぽ脱げるなんてミスはしない。それこそ原作通りになっちゃう。
舞踏会を早退したら罪に問われるなんてことないよね?
夕暮れになる前にドレスを返しに来たから、貸ドレス屋さん目が点だったよ。他の人は明日まで借りてるのに、だってさ。あはは。
普段店頭に出るときの、ワンピースにエプロンという出で立ちに着替えて店に戻る。
「てんちょー、たっだいまー!」
「うお、レイラ!? 舞踏会に行ったんじゃなかったのかよ」
「行ったけどお店が心配で帰ってきた」
「ええええぇ………」
ライリーだけでなく、食事中だったお客様がたも言葉をなくしている。
「ドレスを着るより給仕服のほうがいいなんて、レイラはつくづく変わった子だなぁ」
「給仕服がいいんじゃなくて、てんちょーの手伝いがしたいの」
まだオーダーを取ってないらしいテーブルに走る。常連のおじちゃんがケラケラ笑う。
「王妃になれるかもしれないチャンスをふいにしちまうなんてなぁ。おうライリーよ、責任取ってレイラちゃんを嫁にもらうしかないんじゃないかい」
「わー、ほんと? ライリーがいいならアタシ今日からでも嫁になるよ!」
「こ、こらこら。大人をからかうな。女の子がかんたんに嫁になるなんて言うんじゃ……」
慌てふためくライリーが、手を滑らせてカップを落とした。
ほら、こんなふうだからライリーのこと放っておけないんだよ。
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