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「ごめん、調子に乗った」
ハンカチで頬を拭われ、エリザベスはようやく、自分が泣いていることに気がついた。
ハッとしたエリザベスは、「違うの」と呟くも、信じてもらえない。
目の前の彼は、悲しそうな顔で自嘲している。
「悪かったよ。俺が性急すぎた」
「……いえ」
「……そんなに嫌?」
遠慮がちにそう問われて、エリザベスは真っ赤になって俯く。
「嫌じゃないわ」
「……そう」
「……だけど、その」
エリザベスが絞り出すようにして呟いたのは、「貴方は殿下じゃないから」という言葉だった。
それを聞いたマイケルは、目を見開いて固まったあと、顔を手で覆い、はぁーーーとため息を吐いた。
「な、何?」
「いや。君がいじらしすぎて、悶えてる」
「え!?」
「……あと、自分の馬鹿さにほとほと呆れてる……」
肩をすくめるマイケルに、エリザベスはどう反応したらいいのか分からない。
ただ、女神像で頭を打ってからというもの、ずっと余裕の笑みを浮かべていたマイケルが、照れたように赤くなって目を合わせないようにしていて、それがなんだかくすぐったくて、彼から目を離すことができなかった。
「馬車を降りようか。使用人達も待っているし」
「えっ」
「……今から俺の部屋に行く?」
「今日はありがとうございました!!!!!」
「うん。こちらこそありがとう。また明日も迎えにくるね」
マイケルはくすくす笑いながら、エリザベスをエスコートし、馬車から下ろすと、紳士の礼をして帰っていってしまった。
エリザベスは、彼の乗った馬車の後ろ姿を、何故か不満を感じながら、ぼんやりと眺めていた。
(結局、何もしないの)
そう思い、すぐさま(何よそれ。何かして欲しかったみたいじゃないの!)と慌てふためく。感情の乱高下にどんどん体温を上げ、百面相を続け、ばちーんと自分の両頬を叩いた。
そしてエリザベスは、「お嬢様なんてことを!!!」と、周囲の侍女達に烈火のことく叱られたのである。
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