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「殿下が望んだ婚約じゃないって、最初から分かっちゃったの。だからね、わたしがあんまり、好きになっちゃいけないんだろうなって思って、殿下のことはあんまり考えないようにしてたの。だから七年間、意地悪ばっかりされても平気だったのよ」
「ごめん」
「なのに、こんなふうに、優しくされて。もしかしたら、殿下はわたしのこと、好きかもしれないって思わされて。そんなの、わたしも辛いよ」
「ごめん、エリー。ごめん」
「……殿下と、仲良くなんてできない。わたし、殿下のこと、好きじゃない……」
ぽろぽろと涙をこぼして、肩を震わせるエリザベスを、マイケルは抱き寄せる。
「その金髪の子のことは、ごめん、覚えてない」
「……そう」
「でも、そのとき何を話したのかは、覚えてるんだ」
マイケルは、涙の止まらないエリザベスをしっかりと抱きしめる腕に力を入れる。
「『いいことがあったの?』って聞かれたから、『欲しくて仕方がなかったものが手に入ったんだ』って答えた。エリーとの婚約のことだよ」
「嘘つき」
「嘘じゃない。俺は出会った時から、ずっと、エリザベスのことしか見てない」
「そんなの、信じられない」
「じゃあ、直接聞いてみるといい」
腕を緩めて、マイケルはエリザベスの顔を見ながら、そう伝えた。
「帰ってきた俺に、ちゃんと言わせてやれ。本当の気持ちを話せって、殴ってやればいい」
「殴って無理やり言わせるのね?」
「いや待て、そうじゃない。まあ、それでもいいけど。殴らなくても、俺は勝手に話し始めると思うけどさ」
「勝手に話すの?」
「うん。今、十六歳の俺は、三十一歳の俺の体の中にいるから。未来の君に、こてんぱんにされてるよ」
ぱちくりと目を瞬くエリザベスに、マイケルは笑う。
エリザベスはここで漸く気が付いた。
戻ってくる予定のマイケルは、戻ってくるまではどこかにいるのだ。
どこかとは、目の前のマイケル曰く、未来。十五年後の、未来……。
「わたし、酷いやつね。十六歳のマイケルの心配、全然してなかったわ」
「まあ、いいんじゃないかな。いいお灸だ」
「自分のことなのに、冷たいのね?」
「君に辛い思いをさせる奴は、天誅を食らって当然だからね」
「厳しい人だわ」
くすくすと笑うエリザベスに、マイケルはようやく安心したように笑みをこぼす。
「そろそろ時間だ」
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