1 風が吹いたら?

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 王都の往来、ペット用品店の前の広場にて、エリザベスはマイケルと大喧嘩を始めてしまったのだ。 「何故そんなものを買うんだ! ポッティは俺とフリスビーをしたがっているんだ!」  文句をつけてくるマイケルに、エリザベスは怒髪天で応戦する。 「フリスビーならもう買ったじゃないの! ポッティは私と玉遊びをしたがっているのよ!」 「玉だって別のサイズのやつが既に沢山あるじゃないか! これ以上要らないだろう!」 「サイズや跳ね方が違うのよ、ポッティのことを分かっていないくせに口を出さないで」 「ポッティは俺の犬だ!」 「横取りした人が偉そうに! 元々わたしがもらいたかった犬です! 一番仲が良いのはわたしよ!」 「仲が良いのは飼い主の俺に決まっているだろう!」 「冬の社交シーズンの間、二日に一回散歩に行ってるのはわたくし!!」 「俺も二日に一回散歩に行ってる!!!」 「貴方は勝手にわたしとポッティについてきてるだけでしょう!」  息を切らした二人は、両者引くことなく睨みあう。    ◇◆◇◆  実は、ポッティは元々、エリザベスの家が引き取る予定の犬だったのだ。  エリザベスが十歳のとき、子犬を飼いたいと侯爵である父に強請ったところ、父侯爵はとある伯爵家から子犬をもらう約束を取り付けて来た。  そして、これが全ての原因なのだが、親達の計らいで、子犬の引き渡しの際に、王宮の子ども部屋で他の子ども達にも、子犬を見せてやろうという話になったのである。  子ども部屋にて、十歳のエリザベスは子犬を抱きかかえ、「うちが引き取るの! 今から家に連れて帰るの!」と自慢げに喜んだ。そして、なんやかんやの末、当時十歳だったマイケル第二王子が「この子犬は俺が引き取る!」と横槍を入れてきたのである。  第二王子にそう言われてしまうと、大人達は反対できない。  泣いて抵抗するエリザベスを横目に、ポッティは王家のものになってしまった。  気を使ったブリーダーの伯爵家の者達は、エリザベスに他の犬を譲ると申し出たが、エリザベスはポッティが良かったので首を横に振る。父侯爵に泣きついているエリザベスに、きまり悪そうにしたマイケルは、「婚約者なんだし、散歩をしに王宮に会いにくればいい! 毎日な! 毎日うちに来いよ!!」と威丈高に叫んだ。  そんなマイケルに、エリザベスがビンタと「大嫌い!」をお見舞いし、「今シーズンは二度と会いたくない!」と叫んで彼を泣かせた事件の記憶は、関係者一同の記憶から一生消えないだろう。  なお、エリザベスは翌日からポッティの散歩のため王宮に現れたけれども、マイケルはそのシーズン、彼の父である国王により、エリザベスに近寄らせてもらえないという罰を受けた。マイケルは毎日泣いていたが、エリザベスはそのことを知らない。    ◇◆◇◆
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