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というわけで、因縁の犬ポッティの件は、二人の間で何かと火種になりがちだったのだが、今日はまさにその火種が着火し、業火となってしまった。
エリザベスがポッティのおもちゃを買いに行こうとしたら、マイケルが「婚約者だからついて行く!」と勝手についてきた挙句、エリザベスの買おうとしたおもちゃに文句をつけ始めたのである。
「今日という今日はもう我慢ならないわ!」
「それはこっちのセリフだ! お前はいつも自分のことしか見えてない!」
「何よ、それはそっちでしょう!? 大体、フリスビーなんて嫌なのよ、わたしは上手く投げられないんだから!」
「俺が投げるからいいんだよ!」
「そうしたら、毎回貴方にいてもらう必要があるじゃないの! 面倒くさい!」
エリザベスがそう叫ぶと、ぐっとマイケルが怯んだ。
心なしか、マイケルは涙目になっているようにも見える。
侍従侍女や護衛達は、ただただ痛ましいものを見るような顔で側に佇んでいる。
広場で二人に注目する観衆は察した。
目の前の高貴な金髪碧眼の令息の、不器用な想いに気がついた。
そして、頼むから察してあげてくれと、黒髪美女を見つめた。
しかし、エリザベスはそんな視線には気づかない。
夜空色の瞳で、目の前の憎きマイケルを渾身の力で睨んでいるからだ。
ポッティとの間を引き裂く敵。
エリザベスに興味なんてないくせに、勝手に婚約を結んできて、彼女の心を弄ぶ因縁の相手!
「そういうところが自分勝手だって言うんだ! 誰が好き好んでこんな面倒な女……っ!」
「なんですってぇ!?」
顔を真っ赤にして悔しそうに叫ぶマイケルに、エリザベスは目尻を吊り上げる。
その光景に、観客はギョッと目を剥いた。
待て待て落ち着けボーイ、そこから先は言ってはならない。
誰もがそう思って息を呑んだところで、エリザベスが叫ぶ。
「そんなに言うなら、こんな婚約――」
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