1 風が吹いたら?

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 というわけで、因縁の犬ポッティの件は、二人の間で何かと火種になりがちだったのだが、今日はまさにその火種が着火し、業火となってしまった。  エリザベスがポッティのおもちゃを買いに行こうとしたら、マイケルが「婚約者だからついて行く!」と勝手についてきた挙句、エリザベスの買おうとしたおもちゃに文句をつけ始めたのである。 「今日という今日はもう我慢ならないわ!」 「それはこっちのセリフだ! お前はいつも自分のことしか見えてない!」 「何よ、それはそっちでしょう!? 大体、フリスビーなんて嫌なのよ、わたしは上手く投げられないんだから!」 「俺が投げるからいいんだよ!」 「そうしたら、毎回貴方にいてもらう必要があるじゃないの! 面倒くさい!」  エリザベスがそう叫ぶと、ぐっとマイケルが怯んだ。  心なしか、マイケルは涙目になっているようにも見える。  侍従侍女や護衛達は、ただただ痛ましいものを見るような顔で側に佇んでいる。  広場で二人に注目する観衆は察した。  目の前の高貴な金髪碧眼の令息の、不器用な想いに気がついた。  そして、頼むから察してあげてくれと、黒髪美女を見つめた。  しかし、エリザベスはそんな視線には気づかない。  夜空色の瞳で、目の前の憎きマイケルを渾身の力で睨んでいるからだ。  ポッティとの間を引き裂く敵。  エリザベスに興味なんてないくせに、勝手に婚約を結んできて、彼女の心を弄ぶ因縁の相手! 「そういうところが自分勝手だって言うんだ! 誰が好き好んでこんな面倒な女……っ!」 「なんですってぇ!?」  顔を真っ赤にして悔しそうに叫ぶマイケルに、エリザベスは目尻を吊り上げる。  その光景に、観客はギョッと目を剥いた。  待て待て落ち着けボーイ、そこから先は言ってはならない。  誰もがそう思って息を呑んだところで、エリザベスが叫ぶ。 「そんなに言うなら、こんな婚約――」
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