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馬車に乗り込んでどういうことか詰め寄ろうとしたところで、エリザベスはマイケルに先手を打たれた。
「本当は、君と離れるのが不安で仕方がないんだ」
膝には乗せられなかったものの、奥の座席に座ったエリザベスは、手を握られ、壁に手を突かれ、詰め寄られながらそう告げられ、目を白黒させる。
「な、な、な、な」
「未来の自分とはいえ、十五年前のことを詳細には覚えていないからね」
「ならわたしのことも」
「ただし、君のことはなんでも記憶している」
「何故よ!」
「愛が故だ……」
「あ!? あっ、あの、えっ、あの!?」
「ぶっちゃけると君と出会って以降、毎日エリザベス日記をつけて毎週読み返している」
「そんなものは燃やしてしまいなさい!!」
「愛するエリーの幼少期からのハイライトシーンが書かれているんだ」
「曇りなき眼で本人に向かって言うことですか!」
ジリジリ寄ってくるマイケルから逃げようと抵抗しながら、エリザベスは涙目で叫ぶ。
ふと、マイケルが愛おしそうな目でエリザベスを見つめた後、エリザベスに向かって尋ねた。
「エリーは溺愛系小説が好きだろう? こういうのに憧れてたんじゃないのかな。何故逃げるんだ?」
はたと我に返ったエリザベス。
言われてみればそうだ。
愛されたい、幸せな恋がしたいと思っていた。
目の前の婚約者を、エリザベスはまじまじと見つめる。
目の前には金髪碧眼の若い王子。
よく知っているはずの婚約者は、いつもと違う表情で、自分を好きだと言い、口説きにかかっている……。
ブワッと赤くなったエリザベスに、マイケルは嬉しそうに笑っている。
「違うの。これは、ただちょっとびっくりして!」
苦しい言い訳は、今のマイケルには通じなかった。
エリザベスが本気で嫌がっていないことを察した彼は、にこにこと笑顔を浮かべたまま、エリザベスの手を取り、勝手に恋人繋ぎにしてしまう。
そして彼はその日一日、愛の言葉を囁き、口説き、からかい続けてきたので、日が暮れる頃には、エリザベスはくたくたに疲れ果ててしまった。
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