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「ほら、エリー。侯爵家についたよ」
「本当……?」
「可愛いエリー。馬車の中でそんなふうに無防備にくったりしていたら、悪い男に襲われてしまうよ」
「そんな狼みたいな目をして言うことかしら!?」
「言うだけ親切だと思わないかな?」
そう言うマイケルは、笑顔だけれども、目が笑っていない。
エリザベスは気がついた。
目の前の男は、どうやら今日、本気でエリザベスを口説いていたらしい。
そして今、一日愛を囁いた報酬を求めているのだ。
「ほら、可愛いエリー。こちらを向いて」
頬に手を添え、微笑むマイケルに、動揺しながらも断る理由が思いつかず、エリザベスは息を呑む。
そう、今エリザベスに迫っている目の前の男は、なんといっても、マイケルなのだ。彼女の婚約者で、この国の第二王子。
マイケルとエリザベスの仲に問題がないのであれば、相手は最高権力者の息子なのだから、婚姻まで一直線なわけで、邪魔することができる者などいない。口付けの一つや二つしたところで、なんの問題もない。
とはいえ、今の彼は、彼女の知る彼ではない。
果たして、これは浮気ではないのだろうか?
そもそも、エリザベスはマイケルとこういうことができるのだろうか。
婚約を解消したいとばかり思っていたので、彼女はこういった異性交友について深く考えたことがなかった。
(だって、殿下は)
目の前のマイケルは、優しく、大切なものを見る目でエリザベスを見ている。
だけど、きっと、マイケルはエリザベスにこんなことはしない。
あの人は、エリザベスの嫌がることをするばかりで、こんなふうに愛おしそうな顔を向けてきたことなんて、一度だって――。
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