2 2日目

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「ほら、エリー。侯爵家についたよ」 「本当……?」 「可愛いエリー。馬車の中でそんなふうに無防備にくったりしていたら、悪い男に襲われてしまうよ」 「そんな狼みたいな目をして言うことかしら!?」 「言うだけ親切だと思わないかな?」  そう言うマイケルは、笑顔だけれども、目が笑っていない。  エリザベスは気がついた。  目の前の男は、どうやら今日、本気でエリザベスを口説いていたらしい。  そして今、一日愛を囁いた報酬を求めているのだ。 「ほら、可愛いエリー。こちらを向いて」  頬に手を添え、微笑むマイケルに、動揺しながらも断る理由が思いつかず、エリザベスは息を呑む。  そう、今エリザベスに迫っている目の前の男は、なんといっても、マイケルなのだ。彼女の婚約者で、この国の第二王子。  マイケルとエリザベスの仲に問題がないのであれば、相手は最高権力者の息子なのだから、婚姻まで一直線なわけで、邪魔することができる者などいない。口付けの一つや二つしたところで、なんの問題もない。  とはいえ、今の彼は、彼女の知る彼ではない。  果たして、これは浮気ではないのだろうか?  そもそも、エリザベスは()()()()とこういうことができるのだろうか。  婚約を解消したいとばかり思っていたので、彼女はこういった異性交友について深く考えたことがなかった。 (だって、殿下は)  目の前のマイケルは、優しく、大切なものを見る目でエリザベスを見ている。  だけど、きっと、()()()()はエリザベスにこんなことはしない。  あの人は、エリザベスの嫌がることをするばかりで、こんなふうに愛おしそうな顔を向けてきたことなんて、一度だって――。
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