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第二幕 驚嘆と愁嘆のサーカス
「えーっと、アスターが用意してくれた部屋の住所は……」
「ここで間違いなさそうだな」
僕とヘルは渡された地図を見ながら、町の一角に佇む二階建ての家の前にやってきた。
人間の姿に変化しているヘルは、僕と同じくらいの身長になっていた。犬の姿のときと同じサラサラの髪が風に靡いている。
僕の栗毛色の髪は、変身薬でヘルと同じ黒色になっていた。特徴的な僕の赤い右目も黒に変わっている。流石に存在しない左目を誤魔化すことはできないが、変身薬のおかげで普段町にも薬売りとしてなんとか溶け込めている。僕が忌み子だと言われる原因になった見た目は、エリカ様のおかげで受け入れることができた。しかし、町に降りてくれば怯えられるのは変わらない。
「いつもの薬売りだってバレたらどうしよう……」
ヘルは僕を励ますように背中を叩いた。
「薬売りの見た目とはまた違うから大丈夫だろう。もし何か言われたら俺が相手をするから心配しなくていい」
「ありがとうございます、ヘル」
普段は目の色だけ変えて、フードをかぶって薬を売っている。今は髪色も目の色も異なるし、ローブではなくアスターが用意してくれた庶民の服を着ている。その服に馴染む眼帯も用意されていた。
「ひとまず、部屋に行こう。ここの二階だったよな」
「そうですね。必要最低限の家具は用意されてるみたいですし、そこで計画を練りましょう」
「ああ。あと、今は兄弟という設定なんだから敬語はやめろ」
「そうでした。じゃあ早く行こう、えっと、ヘル兄さん」
部屋に入ると、狭くはあるが二人用の家具が用意されていた。何着か服も揃えられている。好待遇なのを見るに、かなり期待されているらしい。
「まずはここの生活に慣れないとだな」
「そうだね、僕たちは町で暮らしたことないし」
ある程度のお金は事前にもらっているので、働かなくても生活できるが、皆が働いている時間にあまりふらふらしていると怪しまれる。
「昼間は日雇いの仕事をしながら情報収集しつつ、夜はお店に足を運んで様子を伺うのが一番効率的だろう」
「うん、じゃあ明日は二人で仕事探しから始めよう」
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