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「鳥は卵から無理に出ようとする。卵は世界だ。生まれようとする者は、ひとつの世界を破壊せねばならぬ。」 (注1:ヘルマン・ヘッセ著、実吉捷郎訳「デミアン」ペガサス、2014)  誰もいない日の夜は長い。  ──昔の夢だな。  豆塚守斗(まめづかもりと)は、ぼんやりと思う。  夢の中の守斗は、小学生に入ったばかりくらいだった。彼は手にしたリモコンを取り上げて、クリスマスケーキを囲んだ楽しそうな家族が映っているテレビ画面を消す。  テレビなんていいんだ。寝てしまえば、すぐ朝になるんだし。  そう思って寝るのに、いつも夜中に目が覚めてしまって、夜が長くて苦労する。  こんな昔の夢を見てるのは、きっとさっき彼女にふられたからだ。  いつの記憶だったっけ。  そんなに最近の記憶じゃないはずだ。小学校の高学年からは、誕生日は彼女と過ごせるようにしてる。  誕生日がクリスマスイブ。そんな自分が誕生日を一緒に過ごす恋人を探すのは、そこまで難しくはなかった。女の子の方も、クリスマスを過ごす誰かを探しているからだ。  でも今年はさっきふられたから、ちょっと急いで次を探さないといけない。 『別れて。守斗くんって、優しいけどそれだけだよね』  さっき言われた言葉が、じわじわと心の中で不安に変わっていく。  大丈夫、大丈夫だ。  そう子供の自分に言い聞かせて、ベッドに入って、目を閉じる。 「守斗はいい子だから助かるわ」  お母さんもそう言ってた。  寒いのも暗いのもひとりなのも平気だ。  僕はずっとずっとお母さんのこと、待っていられたから。  僕が我慢すれば、みんな喜んでくれるんだ。
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