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八乙女君とはバス停で別れ、トラと一緒に帰って来ると、当然のようにウチにトラの両親がいて、当然のように一緒に入学のお祝いをした。
食事が終わり、お酒がメインになってきた大人たちを置いて、私はデザートのシュークリームと紅茶を二人分持って、トラを誘った。
「トラ、話しがあるから部屋に来て」
「チコ、俺はエクレア派だって、何度も言ってるよな」
トラはお盆に乗っているシュークリームとエクレアを交換した。
「シュークリームだって美味しいのに」
「これは、好みの問題だ。選択肢があるのなら好きな方を選ぶだろ」
「はいはい、行くよ」
二階にある私の部屋に行くと、さっそくトラに八乙女君の情報収集を始める。
「八乙女君に彼女はいる?」
「いない」
「好きな人は?」
「知らない」
「好きな女の子のタイプは?」
「知らない」
「じゃあ、嫌いタイプは?」
「知らない」
「嫌いな食べ物は?」
「コーヒー」
「八乙女君は私の事、どう思ってるかな?」
「俺の幼馴染」
「ちょっと!ちゃんと答えてよ。私は八乙女君と恋をするんだから」
「ちゃんと答えてる。ハチに恋をするのはチコの勝手だけど、ハチがチコに恋をするとは思えない」
「今のところは、でしょ。でも、明日からは分からないわよ」
「チコの根拠の無い自信は、どこから湧いてくるんだ?」
「根拠はあるわ。トラが私の恋に協力するのよ」
「はぁ?何で俺が」
「幼馴染でしょ。おまけに、八乙女君の友達だし」
「…協力する気は無いけど、邪魔するつもりも無いから、チコの好きにしろ」
「せっかく同じ学校に通えるんだし、トラにはちゃんと協力してもらうから」
私はめくるめく恋の計画を立てながら、クリームたっぷりのシュークリームにかぶり付いた。
「んっま。これ、最高なんだけどっ、トラも食べてみ、ほらっ」
「いらない。それより、クリーム、付いてる」
半分ほどかじったシュークリームをトラに差し出したが押し返され、更に口の端に付いたクリームを細くて奇麗な指で拭ぐわれた。
「もう、たまには私のお勧めも食べてみればいいのに」
私はトラの手を払いのけて、残りのシュークリームを平らげた。
「チコは幾つになっても変わらないな、そんなので、恋なんてできるのか?」
「はぁ?恋が何なのか知らないトラに、言われたくないわ」
「それぐらい知ってる」
「嘘つき。じゃあ、恋をしたらどうなるのか教えてよ」
「…会いたくて震える。目を閉じても姿が浮かぶ。黒魔術使ってでも惚れさせたくなる」
「何か、聞いた事あるなぁ。もういいよ、トラにする質問じゃ無かったわ。とにかく、明日からよろしく」
トラの小さい頭をポンポンと叩いたら、冷たい手でふり払われた。
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