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第十三話 『週末は暇?』
それから昼休み。
いつもの席でみんなと昼食を取っていたところ、なにやら雛乃ちゃんの様子がおかしいように感じた。
いつもは率先して会話に参加しているのに、今日はどうも静かだ。
俺はそんな雛乃ちゃんを見かねて、声をかける。
「どうかしたの?」
雛乃ちゃんにそう声をかけても反応がない。そして、俺の声を聞いて会話をしていた珊瑚ちゃんと蛍ちゃんも静まり、雛乃ちゃんの方を見る。
数秒の沈黙。
それから雛乃ちゃんはみんなが自分のことを見ていると気付き、慌てたように口を開いた。
「え、あ、ぁあ、あたし!? なんの話してた!?」
「話っていうか、雛乃ちゃんの様子がいつもと違ったから」
「ど、どどどどどこが!? 普通にいつも通りですけど!? あ、もう食べ終わってる! ごちそうさまでした!!」
雛乃ちゃんは慌てた様子で、空になったお空を乗せたお盆を持って、椅子から立ち上がり去っていく。
「なんか本当に様子おかしかったね」
珊瑚ちゃんがそうぼやくと、蛍ちゃんは頷いて同調する。
「はい。お顔も真っ赤でした」
「何かあったのかな……」
机に戻ってきてからも雛乃ちゃんはずっと無言で。結局昼休みはそのまま終わった。
やっぱり何かあったのだろうか。であるならば、俺もなにか協力したい。友達だから。
部活の時に聞こう。
◇◆◇
今日の部活動は、衣装制作をしている神崎愛斗以外のメンバーで、ウィッグを買うために、コスプレショップへと来ていた。
乃愛ちゃんからは、お金のことは気にしないでいいやつ選んでね、と言われたためみんなで品質のいいウィッグが並ぶエリアへと向かう。
ちなみに、コスプレ部は正式な部ではないため部費はおりず、乃愛ちゃんの自費ということだ。
乃愛ちゃん曰く、「妥協すると中途半端な出来になっちゃうからね」ということだ。あと、「持ってけどろぼー!」とも言っていた。当たり前だが、出費自体は痛いらしい。
また、ウィッグは購入後、よりキャラに寄せるため自分達でカットしたりもするらしい。
とりあえず俺は、ミサの髪色である紫色のウィッグのエリアへと行き、いくつかいいウィッグに見当をつけた。
それから視線を雛乃ちゃんの方へと向ける。
今日一日いつもとは様子が違った彼女は、部活の時間になってもやはり少しおかしいままであった。
なにせあの雛乃ちゃんが乃愛ちゃんを見ても飛び付かないのだ。
それに部活中、彼女とはなぜだかよく目が合い、そしてすぐに逸らされる。
なにか用があるのだろうか。
もしかして俺が雛乃ちゃんを怒らせるようなことをしてしまったのかもしれない。
「ねぇ、雛乃ちゃん」
俺は雛乃ちゃんに歩みより、声をかける。
「え、あ、あぁ、さくら。どうかした?」
「やっぱり今日の雛乃ちゃん、少し様子が変だから。それに目があってもすぐに逸らされるから、私何かしちゃったのかなって」
「え、あ……、ち、違うの! さくらは全く悪くなくて、(……むしろ良すぎて困るっていうか……)」
顔を赤らめ目を逸らされる。最後の方は小声になり、何を言ったのか聞き取れなかったが、とりあえず俺が悪いというわけではないらしい。
「なら、なにか悩みとか? なんでも相談してよ。友達でしょ?」
「ほ、ホントにそういうんじゃないの。心配かけちゃったならごめんね」
「本当?」
「うん、本当。あたし友達には嘘つかないって決めてるから」
「そっか」
多分本当なのだろう。ただ、それなら結局なんで少し様子が変なのだろうか。わからないなぁ、女の子って。
「……ねぇ、さくら。この間の約束覚えてる?」
「え、約束?」
「うん。デパコス巡りしようって」
「あ、うん。覚えてる」
「それについてなんだけど、週末は暇? 今週の土曜日とかどうかなって」
「うん、大丈夫」
「よかったぁ!」
それからの雛乃ちゃんは、少しいつもの調子を取り戻しているように見えた。
コスプレショップからの帰り道では、いつも通り乃愛ちゃんに飛び付いたりしていて。
結局なんでおかしかったのかはわからないけれど、彼女の中でなにかが解決したのだろう。
◆◇◆
土曜日になった。雛乃ちゃんと約束した日だ。おしゃれな雛乃ちゃんの横を歩くのだ。俺はいつもより早起きし、服選びに時間を費やす。
そして十時頃に家を出て、約束の場所へと向かう。
待ち合わせ場所は、雛乃ちゃんの家から最寄りの駅だ。俺は一度電車に乗り、雛乃ちゃんとの待ち合わせ駅へと向かう。電車から降りて駅を出ると、すでに雛乃ちゃんは待っていた。
スマートフォンの画面を見て、髪の毛を整えたり、服を整える。そんな姿が服のお洒落さや顔の可愛さも相まってモデルのように見える。
スマートフォンで時間を確認して、こちらの方を向く……あ、目合った。
少しむすっとした表情でこちらに歩いてくる雛乃ちゃん。
「ちょっと、さくら。気づいてたなら声かけてよ」
「ごめん。なんかすごい雛乃ちゃんが綺麗で見惚れてた」
「……もう。さ、行こ」
雛乃ちゃんは俺の手を引き、駅へと連れ込む。俺は慌ててついていき、雛乃ちゃんの隣を歩く。
なんでか雛乃ちゃんが俺の手を掴んで離さないから、手を繋いで歩いているようでドキドキする。
◇◆◇
「ねぇ、いつまで掴んでるの?」
「なにが?」
電車の椅子に腰を下ろしてしばらく。雛乃ちゃんは未だに俺の手を掴んで離さない。
「手」
「ん、あぁ。じゃあ、こうしちゃお。今日はさくらが迷子にならないようにずっと繋いどくね?」
雛乃ちゃんは掴む位置を少し下げ、俺の手を包み込むように握る。
なんだか今日の雛乃ちゃんはやけに積極的だ。まるで雛乃ちゃんがいつも乃愛ちゃんへと行っているような行動を俺に向けてきている。
正直理性が持ちそうにない。そもそも雛乃ちゃんってこんなに距離感近かったっけ? 乃愛ちゃん以外の人には結構距離を取っているタイプだと思ってたんだけど……。
ていうか手小さくて、暖かくて……。それに俺に向けて微笑む顔が、妙に色っぽくて。
「そ、そんなことしなくても迷子になんてならないよ」
俺は精一杯平静を装いながら答えた。
「さくらはあたしと手を繋ぐのはいや?」
「いや、ではないけど……」
「それならやっぱり繋いでいたいな」
そんな目で見つめられたら、断ることなんて出来るわけない。
俺は静かに頷いた。そんな俺を見て嬉しそうに微笑む雛乃ちゃん。
なんというか、少しデートみたいだ。
◆◇◆
《雛乃視点》
今日の買い物は自分の気持ちに確かめるためのものだ。
あれ以来あたしは、頭のどこかでずっとさくらのことを考えている。
さくらと話しているときも、話していないときも。授業中や家などさくらが近くにいなくても。
声をかけられると胸が高ぶり、名前を呼ばれると顔が熱くなる。目が合うと恥ずかしくなって逸らしてしまう。
こんな感情、先輩にさえ抱いたことなかったのに。
でも、皆に心配をかけてしまった。どうやら普段のあたしとは違うように見えたらしい。
実際あたしも違うと思う。というより、あたし自身、自分の感情に追いついていない。
だから、それを今日、確かめるのだ。
以前、なんとなくで交わした約束がこんな形で役に立つとは思わなかったが。
たくさん触れて、話して、顔を見て。自分がさくらに対してどんな感情を抱いているのかを確かめる。
それが今日の目的だ。
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