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第十九話 『写真いいですか?』
金曜日の部活動は、土曜日のイベントの準備をし、あっという間にイベントの前夜となった。
イベントの開始時刻は九時から。俺たちはイベントが始めてということで、少し早く着いた方がいいということになり、八時にこの間蛍ちゃんの家に行った際に集まった駅に集合ということになった。
つまり、かなりの早起きをすることになるため、今日は明日の準備を整えて早く寝る必要がある。
そのため俺は早めに明日の準備を終わらせ、二十二時頃にはベッドに入った。
布団の中で、明日のことについて考える。
明日はついに、フラグを回収する日だ。
そのためには、ある程度の計画を固めておいた方がいいだろう。
俺はかつて読んだ、漫画「花園の主」の記憶を頭の中に巡らせる。
この「始めてのイベント」は漫画では単行本第二巻の半ばにあり、珊瑚ちゃんが神崎愛斗を意識するきっかけになったエピソードだ。
珊瑚ちゃんがみんなとはぐれ、男達に絡まれているところを神崎愛斗が見つけ出す。
神崎愛斗は男達と口論になり、ついには男達のリーダーのような男に手を出される。もちろん神崎愛斗にそれを受ける術もなく拳が頬に直撃。
神崎愛斗は気を失うことになるのだが、それによって事態が大事化。イベントの運営や警察なども来ることによって、結果的に珊瑚ちゃんは助かることになる。
珊瑚ちゃんは自分のせいで怪我をしてしまった神崎愛斗に引け目を感じつつも、惹かれていく、といった感じだ。
このフラグを回収するためには、珊瑚ちゃんがはぐれ、男に絡まれているところを、神崎愛斗ではなく俺が割り込む必要がある。
事が起こるのは昼の休憩時間。珊瑚ちゃんがトイレに向かったとき。場所も把握している。
大丈夫だ、何も問題はない。
◇◆◇
六時半頃に起床。
朝食や他の準備を済ませた頃には、時計は七時十五分を示していた。つくづく女子の準備は時間がかかることを思い知らされる。
今日は名目上は部活動ではあるものの、制服でなくてもいいらしい。そのため私服を身にまとい、昨晩まとめた荷物の中身を確認する。
うん。忘れ物はない。
俺は珊瑚ちゃんに準備を終えたことを伝え、家を出る。
少しの間玄関前で待つと、珊瑚ちゃんが姿を見せた。
「お待たせ~!」
「ううん、全然。じゃあ、行こ」
「うん!」
俺たちは駅へと向かい歩き出す。
「いやぁ、緊張するね」
「そうだね」
「荷物とか何回も確認しちゃったよ! 忘れ物無いかなぁって」
「うん、私も。なんか不安になるよね」
「そうなの! もう家を出る直前までずーっと鞄の中見てたよ」
そんな会話を交わしながら歩いていると駅が見えてくる。今の時間は七時半ほど。
集合場所の駅へは十五分ほどでつくのでちょうどいいくらいだろう。
俺と珊瑚ちゃんは電車に揺られ、集合場所の駅へと辿り着く。休日の朝早い時間ということもあって、他に人はあまりいない。
電車を降りて、集合場所へと向かうとそこには知った影が一つ。蛍ちゃんだ。
向こうもこちらに気づいたようで、手を振って向かえてくれる。俺たちは駆け足で蛍ちゃんの待つところまで向かった。
「おはようございます! 珊瑚さん、さくらさん」
「おはよ! 蛍ちゃん、早いね」
「はい! 楽しみで早くきちゃいました!」
「すごいなぁ、あたしなんてずっと緊張しっぱなしだよ」
と、こんな感じで二人は会話で盛り上がる。そんな会話に時々俺も混ざりながら待っていると、雛乃ちゃんに乃愛ちゃん、神崎愛斗に加えて、芹沢先生も一緒に集合場所に集まった。
「ごめんね、お待たせ」
俺たち三人が見えたのか、四人は駆け足で近寄ってくる。
こうして集まった俺たちは、再び電車に乗ってイベント会場へと向かった。
◆◇◆
イベント会場は市内でも有名な大きな公園だ。三月末頃には桜の花見などで多くの人が集まるようだ。
そんな会場は最寄りの駅から歩いて十分かからないところにあった。
時刻は八時半過ぎ。まだイベントの開始までには時間があるというのに、意外と人は多く集まっていた。
俺たちは乃愛ちゃんについていき、受付を済ませる。それから更衣室へと案内された。
神崎愛斗と芹沢先生は外で待機。
以前のように、衣裳に袖を通し、雛乃ちゃんに手伝ってもらって、メイクも済ませる。
俺も雛乃ちゃんの着替えを手伝い、準備を終えた。
回りを見渡す。女子更衣室だが、雛乃ちゃんのような男装のコスプレイヤーも多くいる。
当たり前たが、女の子のキャラクターのコスプレをしている人もたくさんおり、メイクなども行われるため、学校の更衣室とは異なり、メイク用品独特の匂いが部屋中を充満している。
クオリティーの良し悪しも人それぞれではあるが、コスプレイヤー一人一人が純粋に楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。
なんだかここだけ異世界のようだ。
「なんか……すごい雰囲気ね。緊張してきた……」
「うん」
雛乃ちゃんの言葉に俺は頷く。
雛乃ちゃんも人前に立つのはあまり慣れていないだろう。俺も、やっぱり緊張する。
「じゃ、みんな外出ようか!」
俺たちの着替えが終わったことを確認した乃愛ちゃんの声掛けで、俺たちは荷物をまとめ、更衣室を出る。
時間もいつの間にか開始時間である九時を少し過ぎており、先程より日差しが強く感じる。
今日の気温は四月にしては高い二十度を越えるようで、コスプレ衣裳のような熱のこもりやすい生地のものだと、水分補給も重要になってくる。
辺りを見回すとすでにコスプレイヤーがたくさんいて、一部の人の回りには写真撮影の列も出来ていた。
俺たちはとりあえず、神崎愛斗と芹沢先生の待つところへと向かう。
「お待たせしました~」
乃愛ちゃんが、長い間待っていてくれていた二人にそう声をかけた。
「なぁなぁ、私も写真撮りに行っていい? あそこにレイク様いるんだよ」
「あ、どうぞ。お待たせしてしまってすいません。しゃあ、そうですね、十二時になったらまたここに集まりましょう」
「了解! じゃ、行ってくる!」
顧問の仕事としてこれはいいのだろうか。とは思うものの、先生もオタクだ。やっぱり我慢できなかったのだろう。
「僕もそこら辺うろうろしてくるよ」
「うん、気をつけてね」
あっという間に五人になってしまった。
「じゃあ、私たちは──」
「すいません、ルナ戦の合わせですよね。写真いいですか?」
何時の間にきていたのか、一人の男性に声をかけられる。
乃愛ちゃんに俺たちに確認をとった後、その男性に返答をする。
「どうぞ」
こうして俺たちのイベントは始まりを告げた。
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