第二十一話 『彼女から離れてください──!!』

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第二十一話 『彼女から離れてください──!!』

 珊瑚ちゃんがトイレに席を立ってからしばらく経った。 「珊瑚ちゃん遅いなぁ」 「あの! 私探してきます。迷子になってるかもしれないので」  俺はその場から立ち上がり、珊瑚ちゃんがいるであろうところへと向かおうとすると、乃愛ちゃんに手首を捕まれた。 「ちょっと待って。珊瑚ちゃんが心配なのはわかるけど、みんなで探した方がよくない? もしかしたら危ないことに巻き込まれてるかもしれないし」 「え、あ、そうですね。すみません」 「でも珊瑚ちゃんと入れ違いになっちゃうかもしれないから、一人はここにいてもらって……」 「じゃあ、私が残っとくよ」  芹沢先生が手を上げここに残ることを宣言する。  それから乃愛ちゃんは手際よく、みんながどの方角を探しに行くのか決めていった。  俺は当初の目的地と同じ方向に向かうことに決まった。恐らくさっき俺が走っていこうとした方向に、乃愛ちゃんがそのまま振り分けたのだろう。  これで計画になんの支障もでない。  俺たちは芹沢先生を一人残し、それぞれの方向へ珊瑚ちゃんを探しに散った。 ◇◆◇  辺りを見回してもまだ珊瑚ちゃんは見つからない。  というか、人が多すぎる! 当然だがコスプレイヤーが多く、皆、派手な衣裳を身にまとっているため、尚更みつけにくい。  それにコスプレ衣裳というのは走ることを想定して作られていないのだろう、ただでさえこの身体になってから走りづらいというのに、さらに走りづらい。  それても懸命に、辺りを見回しながら駆け巡る。すると少し物陰となっていて人目につきづらいところに、男三人に囲まれた一人の少女を発見する。  顔は見えないけどあのリオの衣裳、それに無理やり珊瑚ちゃんのことを囲っている三人組の男たちの特徴的な髪型。漫画で見た通りだ、間違いない。  俺は一直線でそこへと向かい、珊瑚ちゃんの手を取った。 「彼女から離れてください──!!」 「え──さくら……? どうしてここに!?」 ◆◇◆ 《珊瑚視点》  トイレからでて、戻ろうと人の隙間を通り抜けながら歩いていると、背後から男性の声が耳に届いた。 「ねえねえ、そこのリオのコスプレをしてるお姉さん。俺と一緒に写真撮ってくれない?」  振り向くとそこには三人組の男性が。真ん中に立っていてあたしに声をかけた男性の身長は百八十センチはあるだろう。  神崎先輩とは比べ物にならないくらい大きくて威圧感がある。  とはいえ、ここはコスプレイベントであたしはコスプレイヤーだ。  人を見た目で判断してはいけないし、男性の言葉に何らおかしなところはない。 「あ、写真ですね。わかりました」  あたしは、身体を反転して、その男性のもとへ駆け寄る。  付き添いなのか男性二人は少し離れた位置に立ち、そのうち一人がカメラを構える。  そして、あたしと写真を撮りたいと言った大きな男性の手が、あたしの肩に伸びてきた。 「え……? あ、あの近いです……」 「そう? これくらい普通っしょ。大丈夫大丈夫、変なところさわったりしないから」 「いえ……で、でも……」 「あ、もしかしてこういうイベント今日が初めてだったりする? これくらい普通だから」 「そ、そうなんですか……」  彼の言うことはあっているのだろうか。いや、この場合、合っているとか合っていないとかはあまり関係ない。  あたしの力ではこの手を引き剥がすことは出来ない。だから、彼自身が自分ではなれてくれると助かるが、そうする気はないみたい。  なんだか、ちょっと怖い、かも……。 「じゃあ、撮りますね」  カメラを構えた男性の声であたしはポーズを決める。  大丈夫。写真を撮ったら離れてくれるはずだ。  シャッター音が響いた。 「あ、あの、ありがとうございました。それでは……」 「あ、ちょっと待って」  あたしは足早にその場から去ろうとすると、肩におかれた男性の手に力が入った。  力が強い、肩がじんじんと痛む。それに身体が動かない。 「な、なんですか……?」 「もしかして君、高校生?」 「あの、もう撮影終わりましたよね……? 肩、痛いです」 「ええー、もうちょっと話に付き合ってよ。お、そうだ。これからこいつらとカラオケ行こうと思ってるんだ。一緒にどう?」 「行かない、です! 友達待たせてるので。手、離してください」  あたしは肩におかれた手を離させようと必死にもがくけど、ピクリとも動かない。  男性はそんなことを気にもせず、耳元で新たな言葉を紡ぐ。 「じゃあさ、その友達も一緒ならどうよ。それならいいでしょ? その友達のところまで案内してよ」  ダメだ。みんなを巻き込んじゃう。  さすがにあたしでも今の状況が普通ではないことくらいわかる。  でも、みんなを巻き込みたくない。みんなあたしの大切な友達だし……。あたし一人でなんとか解決しないと……!  あたしは首を横に振る。 「そっかぁ、なら、君一人でいいや。お、そうだ、名前はなんていうの?」  男性の足がゆっくりと動き出した。それはあたしが進みたい方向とは全く別のところで。  人の少ない、物陰のようなところへと歩みを進めていく。  あたしは必死にその場にとどまろうと、足に力をいれるけど、力では到底敵わず、引きずり込まれるように物陰に入った。  怖い……。さっきまでならもしかしたら見ていた人がいたら助けてもらえるかもとか思えたけど、こんな物陰に入ったらよっぽどあたしのことに注目していないと誰も気づかないだろう。  大声を出そうにも、喉から言葉が出てこない。 「ねえ、どうしてそんなに俺といるの嫌がるの?」  知らない人にいきなり肩を組まれたら嫌がるのは当然だ。それに男の人だし……。 「ねえ、黙ってないでさぁ。もっと君のこと教えてよ」  あたしは懸命に首を横に振る。  怖い、怖い、怖い……。  なんなんだこの人。あたしにどうしてほしいんだ。  すると、男性の肩を持っていない方の手があたしの手首をつかんだ。 「え……!?」 「君の態度が可愛くて俺のこんなんになっちゃったよ。責任とってくれる?」  あたしの手は男性のあるところまで持っていかれた。  固っ……。あたしだって多少の性知識くらいはある。だから、男性が興奮すると……固くなることも知っている。  でも何で……。さっきまでのやり取りに興奮するところなんてなかったはずだし……。  それに責任って……。 「わかるでしょ? 俺、もう我慢できないなぁ」  そう言って肩におかれた男性の手は、あたしの身体をなめるようにしたにスライドしていき、ついには胸にまで辿り着いた。 「ひ──っ!?」  男性の手はゆっくりとあたしの胸を揉み始める。  痛い、怖い、気持ち悪い……。なんでこんなことになったんだろう……。  大声を出そうにも喉の奥に何かがつっかえたように言葉が出てこない。  あたし、このままだと……犯される。  でも、逃げようにも身体が動かない。震えが止まらない。 「うーん、じゃあまずは口でしてもらおうかな。おい、お前ら。こいつが逃げ出さないように捕まえておけ」  取り巻きのような男性二人にあたしを引き継いだあと、命令を出した男性は自らのズボンに手を掛けた。  本当にする気なんだ。こんなところで。  さっきの男性に代わりあたしのことを捕まえている男性二人は先ほどの男性に比べ力は弱かった。それでもやはりびくともしない。  それは二人がかりだからなのか、単純に男女の力の差なのか。  あぁ、あたし、今から犯されちゃうのか。  そう諦めたときだった。  聞き覚えのある声があたしの耳を貫く。  いつも握っている小さくて柔らかな手があたしの手をつかむ。 「彼女から離れてください──!!」 「え──さくら……? どうしてここに!?」  さくらが来てくれた……。身体中を安堵が駆け巡ったものの、すぐに罪悪感で塗りつぶされた。  巻き込んでしまった……。一番大切な人を。あたしが守らなくてはいけない人を……巻き込んでしまった……。
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