序章 荒ぶる獣たちは、まだ愛を知らない。

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序章 荒ぶる獣たちは、まだ愛を知らない。

 「ねぇ、お姉さま!」  明るい高い声でそう呼ばれてミリアは、はっと我に返った。  柔かな光が差す伯爵家の応接室にいる人々の目が全て自分に集まっていることに気がついたミリアは、恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じていた。  ミリアの右隣に腰かけている金髪の少女にミリアは、微かに笑顔を浮かべて見せる。  「そうね、クリスのいう通りだと思います」  「そうでしょう」  にんまりと微笑んだ金髪の少女は正面に腰かけた同じく金髪の青年に向かって話しかけた。  青年は、いつもと同じくにこにこと笑ってクリスの話をきいていた。    ミリアは、はっと吐息をついた。  つまらない男。  ミリアは、木の上で身を隠しながらさっきの我が家での出来事を思い返していた。  あんな男の気をひくために。  ミリアは、知らずと口許が皮肉っぽく歪む。  『いいかい?ミリア。クリスは、将来の公爵夫人なんだから、それに相応しい生活を送らせなくてはならないんだ』  ミリアの頭の中に父ルドルフの言葉が聞こえてきた。  『そのためにお前ががんばってくれなくては』  ミリアは、聞こえてくる魔物の咆哮をききながらふん、と鼻を鳴らした。  美しい妹クリスティアに比べることもできないぐらい醜い姉。  ミリアは、自嘲した。  足元を巨大な魔物の影が走る。  ミリアは、ふっと息を吐くと飛び降りた。  手に持った刃が煌めく。  頬にかかった魔物の返り血を手のこうで拭いながらミリアは、荒い息をした。  目の前には、ミリアの数倍の大きさの毛むくじゃらの魔物が倒れている。  この猪に似た魔物は、ブラックボアと呼ばれていた。  普通は、数人の冒険者たちが倒すものだがミリアは、ソロで狩りをしている。  ミリアがパーティを組むことはない。  ソロの方が実入りもいい。  ミリアは、倒したばかりの獲物をみて満足げな笑みを浮かべた。  これでしばらくは家族に生活費をせっつかれることもないだろう。  ミリアは、腰につけた収納袋を開くと獣に触れて軽く念じた。  すると小山のような獲物が消えた。  ミリアの持つ収納袋には、この程度の魔物であれば数頭は、収納できた。  ミリアは、収納袋を腰に戻すともう一度木に登り身を隠した。  
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