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邪神は、ミリアに向き合うとにぃっと口許を歪めて吠えた。
地面が揺れる。
地響きのような声を発しながら邪神は、ミリアに向かい歩を進める。
ミリアは、剣を構えた。
邪神の血を滲ませた剣が薄く光を発している。
ミリアが踏み込むより速く邪神は、ミリアへと拳を振り下ろした。
ミリアは、邪神の重い拳を剣で受け止める。
二人の視線が絡み合う。
ミリアは、鼓動が高鳴るのを感じていた。
これは、違う。
ミリアは、剣で邪神の拳をいなすと体を伏せてその間合いに踏み込む。
この男は。
ミリアは、刃のない剣で男の腹を斬った。
光が走る。
男が腹を押さえてうずくまるのが見えた。
ひゅうひゅうと男の呼吸音がきこえる。
勝った。
ミリアは、剣を構えたまま邪神に向かい合う。
止めを。
ミリアは、剣を振りかぶった。
しかし。
ミリアには、できなかった。
この男を殺すことができない。
魔物を前にこんな気持ちになったのは初めてだ。
魔物は、殺すもの。
それがミリアの認識だった。
それにも関わらず、今、目の前の邪神に止めをさすことが躊躇われた。
バカな。
ミリアは、己の中にまだこんな感情が残っていたことに驚いていた。
邪神が苦しげに顔を歪めた。
「私を殺して、お前たちは、それからどうするつもりだ?」
邪神の問いにミリアは、答えた。
「私は、この地で生き延びる」
「この異界で?お前たちだけでか?」
邪神が低く呻いた。
「それは、無理だ。ここは、お前たちのような人の子の生きられる地ではない」
邪神の言葉に少女たちがわっと泣き出す。
ミリアは、ふん、と鼻を鳴らした。
「やってみなくてはわからないだろう」
「確実に、お前たちは、死ぬ」
邪神は、ミリアに告げた。
「だが、お前たちが生き延びる道が一つだけある」
少女たちの鳴き声が静まった。
ミリアは、邪神の声に耳を傾ける。
邪神は、苦しげに息をしながらもミリアに笑いかけた。
「私と共にあることだ。この異界で生きたければ私と共に生きるしかない」
ミリアは、眉をひそめる。
少女たちも。
邪神は、なおも続けた。
「この異界を最も知る者である私と共にならお前たちも生き延びられるかも知れん。どうだ?私と共に生きるか?」
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