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ミリアの人生が決定的に変化してしまったのはミリアが二十歳の春のことだ。
このミディガルド王国においては、百年に一度、異界に住む邪神へ生け贄を差し出す習わしがあった。
その生け贄の一人にクリスティアが選ばれたのだ。
両親は、取り乱し泣きわめいた。
妹は、ショックで倒れ伏し誰にも会おうともしなかった。
ミリアだけがこの騒ぎを覚めた目で見つめていた。
両親は、そんなミリアを恐ろしい生き物をみるような目でみた。
「なんていう娘だ!実の妹の不幸を平然として見ているなんて!」
そう自分を攻める両親にミリアは、うんざりしながらも沈黙していた。
だがそれもクリスティアの婚約者であるルシアンの一言で終わった。
「クリスの代わりにミリアが生け贄になればいい」
それは、ミリアにとって降ってわいたような話だった。
なぜ、自分が?
ミリアは、理不尽に歯軋りした。
この没落寸前の伯爵家を冒険者をしながら支えている自分がなぜ、なにもせずに両親から大切にされている妹の代わりに死ななくてはいけないのか。
しかし、公爵家が動いたのかミリアの知らないところでミリアがクリスティアの身代わりになることは決定されてしまった。
ミリアは、呆然としていた。
悲しみも、戸惑いもない。
あったのは、もっともっと冷たい感情。
生け贄になることが決まってもミリアは、泣くこともなければ怒ることすらなかった。
ミリアの心にあったのは冷めた諦観のようなものだった。
両親は、ミリアのために王都で一番の仕立て屋を呼んだ。
ミリアのための最初のドレスを作るためだ。
それは、ミリアにとって最後のドレスでもあった。
特に感情を示さないミリアに仕立て屋は、白地に緑の美しい刺繍が施されたドレスを作った。
それは、ミリアの肢体の美しさを際立たせるデザインだった。
生け贄として家から神殿へと出ていくミリアの姿を見て両親は、初めて惜しいと思っていた。
少し陰気だが、美しいと言えないこともない。
これなら嫁の貰い手もいたのかもしれない。
だが。
全ては、遅かった。
ミリアは、後ろを振り向くこともなく家族のもとを去っていった。
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