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ミリアには、軽くて薄い革製の鎧とミスリルの短剣も与えられた。
ミリアは、それをドレスの上から身にまとうと腰にベルトを巻き短剣をさした。
美しいドレスだったが裾が長すぎて動きにくい。
ミリアは、ドレスの裾を膝の上辺りで切り裂いた。
白地に緑の糸で美しい刺繍が施された布の切れ端を手にミリアは、ため息をつく。
こんな美しいものをミリアは、初めて与えられたのだ。
ミリアは、少し考えてからその布で長い黒髪を包んで結い上げた。
短剣で長く延びた前髪を少し切る。
前が開けたように明るくなりミリアは、口許を緩めた。
日が変わると急に神殿は慌ただしくなった。
神官たちが行き交う足音が聞こえる。
ミリアは、深い呼吸を繰り返した。
もうすぐ、だ。
もうすぐ。
生け贄の儀式は深夜から早朝にかけて行われるらしい。
ミリアは、動きにくい靴を脱ぐと足に余ったドレスの布切れを巻き付ける。
本当ならもっと丈夫な靴が欲しかったが仕方がない。
ミリアは、腰かけていた寝台から立ち上がるとその場でとんとん、と軽くジャンプした。
神殿の宝剣とやらは、使い物になりそうにないが一応持っていくことにする。
なまくらでもないよりはましだ。
ミリアの用意が整うと部屋のドアが開かれた。
ミリアは、息を飲んだ。
戦いが始まる。
儀式は、神殿の地下にある斎場にて行われた。
こうこうとかがり火が焚かれている広間の中央に金色に輝く魔方陣が描かれている。
神官たちは、ミリアと他の二人の少女を魔方陣へと誘導した。
陣の中に三人の少女が立つと魔方陣が白い光に包まれる。
3人の中にあっては、ミリアだけが異質なものだった。
ドレスは無惨に切り裂かれているしあきらかに武装している。
そして手には黒い鞘に収まった長剣を携えていた。
だが、誰も文句をいう者はいなかった。
彼女は、その場にいる人々にとってもう生きている者ではない。
死人がなにをしようとも生きた者たちには関わりはない。
ただ、ミリアの手の剣に誰かが声をあげた。
「あの剣は、女神の宝剣?」
「違います」
ミリアのもとにきた神官が穏やかに告げた。
「これは、女神の宝剣などではございません。ただ、この方が剣をと望まれたゆえに用意したものでございます」
辺りがざわつく。
神殿の長たる老いた大神官は、ミリアたちの前に立つと急ぐように小声で呪文を唱えだす。
低い振動が地下の空間に広まっていき、人々が息を詰めるのがわかた。
大神官は、三人を憐れみのこもった目で見つめた。
「どうか、御武運を」
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