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翌日。
わたしは、動きやすい街娘風のワンピースに着替えて歩いて城から街へと向かった。
ロクは、見送りには出てこなかった。
「拗ねておられるのでしょう」
わたしと同じようなドレスを着た若い燃えるような赤毛の可愛らしい丸い獣の耳を持った女の子がわたしの後ろをついてくる。
「ロクが?」
わたしは、その少女に訊ねた。
「ロクが拗ねたりするかしら」
「ええ」
少女は、頷くと眉をよせる。
「思い通りにならないことがあるとすぐにへそを曲げちゃうんです」
わたしは、彼女の言葉にくすくすと笑った。
あのロクがまるでただの小さな子供みたい。
「笑い事じゃないですよ、クゥオ様」
その少女は、続けた。
「何度、あのお方に振り回されたことか!」
「そうなんだ。でも、今回のことは、わたしのわがままだから」
わたしは、少女に微笑みかけた。
「ごめんなさいね、サリ」
サリは、慌ててわたしに言葉をついだ。
「とんでもないです!私の方こそすみません!出すぎたことを申しました」
サリは、わたしの警護に選ばれた宮廷騎士団の騎士だ。
なんでもこのランナクルス王国の侯爵家の次女らしい。
女の騎士様だなんて。
能力重視のロクらしい。
わたしは、今日から働くことになった錬金術の工房へと向かいながらサリに話した。
「ほんとに、申し訳ないと思ってるの。宮廷騎士であるあなたに迷惑をかけてしまって」
「とんでもないです!」
サリは、にこにこと微笑んだ。
「時期王妃であるクゥオ様をお守りすることは、とても名誉なことですから!」
時期王妃?
わたしは、小首を傾げた。
うん。
なんかの冗談に違いない。
確かにロクは、わたしに親切にしてくれてるけど、まさか、ね。
というか。
わたしとロクは、契約をした筈。
えっと、なんの契約だったっけ?
わたしは、歩きながら考えていた。
ロクは、『強欲』の悪魔だ。
わたしの一番大切なものと引き換えにわたしを助けてくれた。
でも。
わたしの一番大切なものって?
「それにしても、本当に、あのお方は、あなたに甘すぎると思います」
サリがぼそっと呟く。
「あなたのためならきっと世界の果てにあるという神代のダンジョンだって攻略しようとすることでしょうね」
神代のダンジョン。
それは、伝説のダンジョン。
攻略した者の願いがなんでも1つだけ叶うというダンジョンだ。
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