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百年に一度、神代のダンジョンから神様が現れるのだという。
それは、クロフクロスト王国の祖である方々ととてもよく似ているらしい。
クロフクロスト王国では、百年ごとに勇者を選びその方をお迎えに行く。
そして、その時は、もう迫っていた。
きっと、キースは、勇者に選ばれるだろう。
わたしは、胸がちくりと痛むのを感じた。
なぜ。
彼は、わたしを追放しようとしたの?
わたしのことが嫌いになったのならそう言ってくれたらよかったのに。
そうすればわたしも納得しただろう。
いや。
わたしは、苦笑いを浮かべる。
きっと、わたしは、納得なんてしなかったのだろう。
だから。
それがわかっていたからキースは、わたしを。
「つきましたよ、クゥオ様」
サリの言葉にわたしは、足を止めて頭上にある看板を見た。
槌と剣が交差した看板の中央に『クルトの工房』と書かれていた。
クルトというのは、親方の名前だ。
わたしは、飾りっけのない木製の扉を押し開くと中に入っていった。
店の中は、薄暗く埃っぽい匂いがした。
カウンターの他には、何もない。
ただ、カウンターの上に額が飾られていた。
『我は、『強欲』の徒なり』
その額には、そう、書かれている。
「ほんとに来たのか」
店の奥から親方が現れた。
親方は、薄汚れた白シャツの上に分厚いヒトカゲの皮でできたエプロンをつけていた。
わたしは、親方にぺこりとお辞儀をする。
「よろしくお願いします、親方」
親方は、渋い顔をしてわたしを見ていたが、踵を返した。
「ついてきな」
親方の工房は、店の奥にあった。
錬成用の大釜があり、魔法の炎が燃えている。
工房には、親方しかいないようだ。
「ポーションを作ったことは?」
「はい?」
わたしは、親方にきかれてきょとんとしてしまった。
ポーション?
クロフクロスト王国にもポーションというものはあったが、錬金術師が作ることはない。
ポーションを作るのは、魔法使いか聖女だけだ。
わたしの様子を見て親方は、ふん、と鼻を鳴らした。
「クロフクロストの錬金術師は、ポーションも作れないのか?」
わたしは、むっとして親方を睨んだ。
「クロフクロスト王国では、ポーション作りは、魔法使いか聖女の仕事でした。錬金術師は、主に、武具を作ったり、魔道具を作ったりしていました」
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