第5章 魔女の血族

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 気がつくとわたしたちは、ランナクルスの城の庭に立っていた。  「転移したの?」  わたしは、辺りを見回した。  そこは、色とりどりの美しい花が咲き乱れ、甘い香りが漂っていた。  ロクがわたしの耳元で囁く。  「だから、君を離したくなかったんだ、クロト」  ロクの低い声に耳をくすぐられてわたしは、体をこわばらせた。  ロクは、気にする様子もなくわたしの耳に唇をよせる。  「これでもう、君を隠しておくことはできなくなってしまった」  わたしは、ついさっき冒険者ギルドで起こったことを思い出して首を傾げた。  「変、ね。わたしのスキルは、錬金術だけの筈なんだけど」  「君は」  ロクは、わたしをぎゅっと抱きしめた。  「まぎれもなく聖女なんだよ、クロト」  ロクは。  わたしを強く抱いたまま話した。  「5年前、君は、本当は、聖女として選ばれる筈だった。だが、それを望まない者がいた」  ロクは、信じられない言葉を継いだ。  「それは、君のもと婚約者の一族の者たちだ」  「キースの?」  わたしは、信じられない思いだった。  あの、キースの一族。  王族に連なる者たちであるリード家の人々がわたしが聖女であることを望まなかった?  「そんなこと」  「君は!」  ロクが少し体を離してわたしのことを覗き込んだ。  「まだ、奴らのことを信じているのか?クロト。君をあんな風に捨てた、あの連中のことを?」  「だって!」  わたしは、ロクを見上げると何かを言おうとした。  けど。  言葉が出ない。  なぜ?  なんでリード一族は、わたしを?  キースは?  彼は、このことを知っていたの?  「キースは・・?」  わたしがきこうとするとロクがわたしの唇を自分の唇でふさいだ。  「んぅっ!」  わたしは、ロクを突きはなそうとして彼の胸を両手で押した。  けれど、彼は、びくともしない。  やだっ!  わたしは、急に怖くなって。  必死にロクの胸を叩いて暴れる。  それでもロクは、わたしを貪るのをやめなかった。  わたしは。  泣きながらロクの胸元を叩き続けた。  なんで?  なんでキースは、わたしを?  わたしが聖女だったのなら、なんでわたしを捨てたの?  なぜ?  
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