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一瞬、目の前が暗くなりそして足元からぐらりと揺れる。
ミリアは、倒れないようにその場に踏ん張る。
だが、他の二人の少女は、倒れ込み悲鳴をあげた。
揺れはじきにおさまったが、ミリアの他の少女たちは地面に倒れたまま低くすすり泣いていた。
転移の術により彼女らは、異界へと飛ばされたようだ。
ミリアは、腰を低くすると周囲を見回した。
そこは、崩れ落ちた廃墟のような場所だった。
辺りは、暗く静かだ。
しかし、空は、うっすらと明るい。
太陽も月もない。
ただ、紫色にたなびく雲のようなものが見える。
「ここは、どこなのでしょうか?」
少女たちの内、泣き止んだらしい方が誰にともなく訊ねた。
ミリアは、ちらっとその少女の方をうかがった。
少女は地面に座り込んでミリアのことを見上げている。
丸い顔に、赤茶色の髪を肩までで切り揃えた少女は、震える声でミリアにきいた。
「ここが異界なのですか?」
ミリアは、答えなかった。
前に広がる闇がうごめく。
ゆっくりと闇が人の形をとって凝り固まっていくのが見えてミリアの全身に緊張が走る。
「お前たち」
低い声が空気を揺るがせる。
「なぜ、ここに来た?」
二人の少女たちがひっと小さく悲鳴をあげる。
ミリアは、ミスリルの短剣を抜くと身構えた。
「我々は、邪神への生け贄、だ」
「なるほど」
その影は、にやりと嗤った。
「異界よりの貢ぎ物、か」
影は、ゆっくりと歩みを進める。
その全身がミリアのすぐ目の前へと現れたとき、ミリアは、はっと息を飲んだ。
長い透き通るような銀の髪は、それ事態が光を発しているかのように輝いている。
肌の色は、闇に溶けるような褐色。
何よりもミリアの目を引き付けたのはその瞳だった。
青い。
冷たく凍える冬の月のようなその瞳には、ミリアの姿だけが写されている。
ミリアは、女神の剣を捨てると短剣を構えた。
「お前が邪神とやらか?」
ミリアの問いにその男は、にぃっと口許を歪ませた。
「そう呼ばれている」
「そうか」
ミリアは、小さく頷くと自分よりもずっと上背のある相手を睨みあげる。
ミリアの殺気に気付いた男は、一瞬驚いたような表情になるがすぐに口許を歪める。
「面白い」
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