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ロクは、わたしの頬に手を伸ばすと触れた。
冷たい手の平に愛撫されてわたしは、心地よさを感じていた。
ロク。
あの日。
本当なら遠くクロフクロスト王国から離れた場所で処刑される筈だったわたしを助けてくれた。
そして。
わたしと契約を結んだのだ。
『強欲』の悪魔として。
「お願い」
わたしは、『強欲』の悪魔であるロクに頼んだ。
「わたしをクロフクロスト王国の家族の元へ返してください」
「クロト・・」
ロクの美しい顔が歪む。
泣きそうな顔をしたロクをわたしは、涙で滲む瞳で見つめ返した。
「必ず!必ず、あなたにわたしの命を捧げます。だから、わたしをクロフクロスト王国へ行かせてください」
「絶対に死なないと約束しろ」
ロクがわたしを抱きよせた。
「必ず、生きて戻れ!これは、命令だ!」
しばらくロクは、わたしを強く抱いていた。
「何をしているんですか?あなたたちは」
突然、背後から声をかけられてわたしたちは、びくっと体をこわばらせてお互いから離れた。
「いきなりノックもせずに入ってくるとは無礼だぞ!ライナール」
振り向くとそこには、ランナクルス王国の宰相である藍色の髪をした小柄で小太りの青年が立っていた。
「ノックはしました」
ライナールは、含み笑いを浮かべてロクを見た。
「何かに夢中で気がつかれなかっただけでは?」
「くっ!」
ロクは、苦々しげに顔をそらせた。
ライナールは、くすくす笑いながらちらっとわたしを見た。
「まあ、こちらの姫にあなたが首ったけなのは、みな、知っておりますが仕事中は、お控えくださると嬉しいですな」
「いやっ!」
ロクが急に思い付いたかのように言い出す。
「今からこちらのレディにその、プロポーズしようと思っていたのだ。ちょうどよい。お前は、見届け人になってくれ!」
「はい?」
驚いているわたしとライナールをよそにロクは、私に向かって跪く。
「どうか、わたしの妻になってくれないか?クロト・エルダー嬢」
わたしは、信じられなくって。
でも。
ロクと暮らしたこの数ヵ月の間にすっかり絆されてしまっていた。
わたしは、頬が熱くなるのを堪えながら震える声で応じた。
「ほんとにわたしでいいのですか?ロクザナ-ル様」
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