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「妻が何を言ったのか知りませんが、それは真実ではありません」
「はぁ?」
目の前で暴行が行われようとしていたのた。警察官も見ていた。言い逃れできるはずがない。
「家事は全て私がやっています」
小川さんはため息混じりに話し始めた。
「結婚してからずっとです。料理も洗濯も掃除も、みんな私がやっています。家事は得意なので苦ではありませんが」
なるほど。それで清美さんの手は美しく保たれているのか。小川さんの手が荒れているのも納得できた。清美さんの相手には最適だ。
「男子厨房に入らずという時代ではありませんしね。しかし暴力はいけませんよ」
「私は妻に暴力を振るった事など一度もありません」
「だったらあの怪我は何なんですか? 事実私や警察官の目の前で奥さんに手を上げていたじゃありませんか」
「違います。あれは妻が酒を飲もうとしていたので取り上げた所だったのです」
「……え?」
そういえばあの時小川さんの手にはチューハイの缶が握られていた。あれを清美さんが飲もうとしていた? そんなバカな。まだ乳離れもしていない赤ん坊がいるのに、清美さんがお酒を飲もうとするはずがない。
「妻は昔から大の酒好きでした。でも妊娠してからは飲まなくなりました。つわりが酷くてさすがに飲めなかったようです。しかし最近、また飲み始めたんです」
「じゃあ母乳は……」
「私も最初は気づかずにいました。でも娘の様子が時々おかしくて、それで妻が飲酒しているのだと分かりました」
母親が飲酒をすると母乳を通して赤ん坊もアルコールを摂取する事になる。とても危険だ。
「私は妻に注意をしました。せめて娘がご飯を食べられるようになってから飲んでくれと。妻は素直に了承してくれました」
「でも、隠れて飲んでいたんですね?」
「はい。ゴミ箱の奥に隠すように捨ててあったお酒の空き缶を見つけた時、私は生まれて初めて妻を怒鳴りました。責めました」
小川さんは拳を震わせ唇を噛み締めた。
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