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なんという事だ。僕はなんと無力なのだ。僕の体はブルブルと震え出した。
「先生、次の患者さんお呼びしてもいいですか?」
僕にはもう診察などできない。また誤診してしまうかもしれない。怖くて医者なんて続けられない。
「先生!」
事務員ががっしりと僕の肩を掴んだ。
「みなさん先生の診察を待っています。先生は内科の名医ですから。専門外の患者なんて放っておけばいいんです。なんといっても先生は内科の名医なんですから」
節くれ立った指が僕の肩を掴んでいる。あんなに醜悪だと嫌悪していた指だったが、実際触れられてみると嫌な感じはしない。むしろ力が漲る。安心する。
僕は名医だ。そんな名医をも惑わすのが清美さんの指だ。あれは魔性の指だったのだ。名医をヤブ医者に貶める悪魔の指だったのだ。
「次の患者さんを呼んでください」
「はい!」
事務員はドアを開けた。ドアノブを掴むその手の力強さに感動を覚えた。手の甲のシミにも趣がある。ひとつひとつ主張する関節の造形美に目が離せない。
青い鳥は近くにいたのだと、やっと気が付いた。
〈終〉
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