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俺が子供の時は龍のコミュニティがあり、そこで鍛錬や狩猟生活をしていたものだが、龍涙という万能アイテムがあれば惜しげも無く使用していた筈だ。だが彼らは使用する所か、存在すら仄めかさなかった。知らなかった、と考えるのが妥当だろう。そうなると龍神会が何故その存在を知っているのかという疑問にぶち当たるが、思考を意図的に打ち止めた。
考えるのは柄じゃない。何かあれば暴力と支配で事を収める。それが龍のやり方だ。それしか教わらなかったから、そうするしか出来ないだけだが。
「なんか配給の内容しょっぱくないッスか?」
カーペットの上に置かれた二箱のダンボールを指さして、カエデはそう愚痴る。中身はカップ麺や野菜などの食料品を除けば、後は生活用品ばかりだった。肉や魚などのタンパク質を入れていない辺り、龍の習性をよく知っている奴らだ。俺に力をつけさせるつもりは無いらしい。
契約書を丹念に見直せば良かったなと後悔するが、別にやりようは幾らでもある。今はこの天狗をどう利用するかを考えた方が得策だ。
水を入れた薬缶を火にかけ、スティックタイプのカフェオレの粉末をコップに注ぐ。配給品に入っていた物だが、存外悪くない。甘ったるい感覚が舌に残り、飲み干した後も存在感を放つ。酒には及ばないが寝る前に飲むのなら丁度いい。
「あ、私も欲しいッス」
「自分で作れよ」
「ケンジンより先に泣くッスよ?」
「勝手に泣いてろよ。俺は作らんからな」
沸騰した薬缶から流れ出る湯をコップの中心から渦を巻くように注ぐ。芳醇な香りがリビングに広がる。頬を膨らませたカエデの顔が良いツマミになる。
半月が窓の外で煌々と輝いている。
風音は聞こえないが、飾り付けてある風車を見るとゆっくりと回転している。秋の前半とはいえ掛け布団の生地を分厚くした方が良いかもしれない。
「カエデ、俺はそろそろ寝るから」
「じゃあ私も一緒に寝るッス……んあ?」
「……毎回言うのは癪だが、ソファで寝ろよ」
「ケンジンが悪夢でも見て泣くかもしれないじゃないッスか。これも業務の一環ッスよ」
俺とカエデは、同じベッドで寝ている。
これだけ聞くと仲良しな奴らだと笑われるかもしれないが、実態はカエデが俺を抱き枕代わりにしたいだけだ。腕に涎がべっとりとかかっていた時、流石に斬っても罰は当たらないだろうと本気で考えた。
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