2 日常

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 俺達の関係は、『友達』でも『夫婦』でも無い。  涙で繋がれた浅く脆い、指で突けば崩れ去る程度の儚い関係だ。それでいいし、それ以上には絶対にならない。龍は決して何者も信用しないのだから。 「抱っこして下さいッス」 「……早く出てけよ、クソ天狗」 「泣くまではお預けッスよ、馬鹿ドラゴン」  仕方無く脱力したカエデの腰を掴んで抱え上げる。絹のように軽い、というより肉体の大きさに対して質量があまりにも足りない。収容された翼の重さを鑑みても片手で持ち上げられるくらいだ。俺が龍だから質量を感じないだけだろうか。  無防備に顔を緩ませるカエデが掛け布団の殆どを占有している。深く眠りにつくにはまた時間がかかりそうだ。静かな明日はもう二度とやって来ないかもしれない。当然カエデがここに残ればの話だが、そうならない為にも解決策を模索しなければならない。 「明日はバイトなんで朝八時に起こして下さいッス……」 「……はあ? そんなの聞いてねえぞ」 「契約書に書いてたじゃないッスか。あなたのプライベートの時間を確保するって。ケンジンもお肉食べたいでしょう? 食費は私が稼ぐッスよ」 「勝手に俺に肉なんて食べさせていいのか?」 「業務内容は涙の回収だけなんで、他は全部私の自由なんッスよ。どうせケンジンは私を食べないし、格好良い所も見たいし」  俺を勝手に分かられた気になるのは腹が立つが、静かな明日がやって来ると思うと胸が高鳴る物だ。二日前から何処かに電話をかけていたのはバイト探しでもしていていたのか。というか龍神会内部で仕事は割り振られていないのか。自由な気風を大事にしている、と言えばそれまでなのだろうが。 「カエデ、お前らは……いや」 「何ッスか?」 「何でもない。涎はせめて枕にかけろよ」  ずっと考えていた疑問が口をついて出そうになった。今聞くのは得策では無い。そう自分を納得させる。  龍神会は何匹の龍と同時に交渉しているのかなんて聞いた所で、上手くはぐらかされるだけだ。
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