3 バイトと散歩

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「あっちゃちゃ!」 「フーフーして食べろよ。全く……」 「じゃあケンジンがフーフーして下さいッス」 「何でそうなるんだよ」  本気か冗談か分からないような言葉が時折カエデの口から飛び出る。俺を揶揄って楽しんでいるのか、それとも涙を流させる為の策略か。どちらにしても不愉快極まりない。龍として生きてきてここまでコケにされた経験は未だかつて無いだろう。  龍は仲間を作らない。  龍は敗北を許さない。  龍は、強くなければならないのだ。  例え龍という種族を嫌いだと思っていても、自らに与えられたこの血には逆らえないのだから。  食べ終えた鍋をスポンジを使って洗い流していく。力を込めて丁寧に、表面に傷がつかないように。カエデはソファでお笑い番組を見て楽しんでいる。その様子を見ると、コイツは今生きるのが最高に楽しいのだろうなと感慨に耽ってしまう。 「カエデ、バイトはどうだった?」 「まあまあッスね。移動には困りませんし」 「その、酒でも飲むか?」 「なんか優しいッスね。やっと私の壮大な魅力に気付き始めたんッスか〜?」 「かもな」  冗談っぽくそう呟くと、番組を見て笑っていたカエデが途端に無言になった。俺は酒を注いでカエデに手渡す。まだ一口も飲んでないのに、何故か頬に朱色が灯っている。 「……もしかしてもう飲んでるんッスか?」 「かもな」 「龍涙の流し方、分かったッスか?」 「かもな」 「私が好きな美味しい鳥は?」 「カモな」 「うわあ!? かもなかもな症候群だ!」  気分が良くなってきた。  普段は良い事が起こった時しか飲まないが、美味しい鍋を食べてしまったので仕方ないだろう。それにこんな気持ちになるのは何十年ぶりだろうか。龍らしくはないが酒のせいにして誤魔化す事にした。カエデは終始楽しそうだった。
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