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「さっさと出てけよ、クソ天狗」
「泣くまでは無理っすね、馬鹿ドラゴン」
朝起きていつもの減らず口を叩き合い、そのまま俺とカエデは外出する手筈を整え始める。どうやら酒を飲んで酔いどれになった俺が、何処にでも連れてってやると言ってしまったらしい。カエデに近くに風情の良い公園があるので付いてきて欲しいと言われ、面倒臭くもこうして外出の準備をしている。酒に飲まれた末路がこれなら反抗する意思も無くなる。髪色を龍の擬態化能力で黒色に染め上げ、顔も頑張って少し地味目にした。
この家は山奥にあるので人間の住む街まで行くには時間が掛かるが、カエデが俺を持ち上げて飛行する事で強引に解決した。こんなに力があるとは思わなかった。山の木々の中には先端が赤く色付いた葉もあり、季節の移ろいをこの目で実感した。
「なんか太ってません?」
「筋肉と言え、筋肉と」
「重い〜! ドラゴンフォルム使って下さいよ〜」
「クソデカすぎて目立つわ!」
最寄りの駅付近に降りて、電車に乗ってみたかったのだというカエデが切符の買い方が分からずに右往左往しているのが面白かった。駅員に尋ねてようやく購入出来た。俺はその間にお土産屋で試食を店員にバレないようにちょっと多めに取って食べていた。
「ケンジン、最初から分かってたッスよね?」
「かもな」
「今は酒を飲んでないでしょ!?」
狼狽える様が滑稽で、過剰におちょくってしまった。拗ねて電車内ではマトモに口を聞いてくれなくなった。景色が後ろへと進んでいくが、龍の飛行の方が速いので特段感動は無かった。紫色の座席は柔らかく、腰を落としてもしっかりと体を受け止めてくれていた。快適な乗り心地だったが、カエデが俺を運んだ時の方が空気は美味かった。
「あー何か褒めてくれないと口が開かないなー」
「いや、開いてるじゃねえか」
このまま無言で居られるのも面倒臭いので、取り敢えず声が大きい事と文句の付け方が上手い事を良点として挙げておいた。さっきより殺気が増してしまう結果となったが。俺は事実を言っただけなのに、腑に落ちない。
「……まあ、元気なのは良い事だな」
「それから?」
「ええっと、困るんだが……」
無言の時間が続くと、カエデは俺の鼻を摘み、「まあ許してやるッス!」と何故か許されてしまった。喧しい口が開くが、また拗ねられるのも居心地が悪いので何も追及しない事にした。
二駅先の知らない土地で、カエデは迷わず先導してくれる。途中でコンビニに立ち寄って肉まんを半分に分けて食べた。天狗がいなければこうやって美味しい物を食べる機会も無かった。そこはまあ、感謝してもいいかもしれない。口には絶対にしないが。
「公園よりまずはこっちっス!」
「はあ? なんでだよ?」
「ケンジンが酒に酔って行きたいって言ってたんッスよ? 約束を破るなんてそんな子に育てた覚えはないッスよ!」
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