4 食欲

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「シガン、何か聞きたい事でもあるんッスか?」 「……ああ、本当はカエデちゃんが来る前に聞けたら良かったんだが、興が乗っちゃってな」  あの本気の覚悟を興が乗ったから受けたと表現されるのは少し腹が立つが、今は隠す。彼女がシガンの手網役を担ってくれるならそれに越したことはない。 「龍涙を集める理由は確か、誰かを生き返らせたいからだったか? 教えてくれよ、そいつがどんな奴か」 「えー? 守秘義務あるし嫌ッスよ」 「その反応からして、知ってるんだな?」  ニヤけた顔が歪んでいく。実力行使を厭わない龍なのは分かっている。だが、今度は殺意ではなく諦めを含ませた深い皺を額に刻み込んでいた。まるでこれ以上情報は得られないと納得しているようだった。 「……カエデちゃんに勝てる未来が見えねえな」 「そりゃあパーフェクトガールなので!」  気味が悪い程にあっさりと話題は中断された。勝ち誇った顔で白玉を噛む彼女は、龍を恐れる様子が無い。噂で聞いた話だが彼女はあの紅月龍、ケンジン・ハルバルトロープを担当しているらしい。今までに食らった人間の総数は不明。つまり測定不能な程に胃袋の中に収めて来たという事だろう。  その龍とも上手くやれている辺り、この類の龍の扱いには慣れているのだろう。頼もしい限りだが、優しさだけを持っている訳では無い。あの日の狂気にも似た笑顔を覚えている。信用も信頼もしているが、目をかけておく必要はある。疑心暗鬼が過ぎるが、こうして私は生き残ってきたのだ。致し方ない。それに、私の仮説が正しければ……。 「じゃあシルバニちゃん、緑閃龍の話をしよう」 「……何も話す事は無いですよ」 「情報が聞きたいんじゃねえよ。ただ会って、そこの客みたいに仲良くお喋りしたいだけさ」  家族連れの客を指差し、害を与える気は無いと露骨にアピールしている。信用も信頼もしてない口の上手い龍の戯言など誰が信じるか。 「シルバニ、私は受け入れても良いと思うッスよ」  思わぬ意見が飛び込んできた。隣でメニュー表を眺めている彼女が微笑みながら問いかけて来る。 「緑閃龍への復讐は自分がやらなくても良いんじゃないッスか?」 「……シガンを戦わせるつもりですか?」 「少なくとも、あっちはその気みたいッスよ」  店員がやって来てカエデはイチゴアイスを注文して、空になったピッチャーを交換して欲しいと頼んでいる。龍は無言のままで氷を噛み砕いて咀嚼している。黄色の瞳が、一瞬こっちを向いた。
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