2 日常

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 『友達』というのを今までに作った事が無い。龍は常に闘いに身を置く物だからだ。生物を食らう事以外は全てが瑣末。故に友達も仲間も要らない。 「やっぱりテレビ大きいッスね〜。映る人間が実物より大きいの凄い違和感あるなあ」  ソファで配給されたスナック菓子を貪り食らうカエデが、粉末をボロボロと床に零している。ロボット掃除機が吸っても暫くすればまた落ちている。呆れたのかロボット掃除機がカエデの周りを通らなくなった。  灰色のパジャマに身を包んだカエデは、初対面の時の数十倍は情けない奴だった。監視の名目で俺の生活用品を使い込み、俺の為に配給された物は大体が私物化されている。 「私の事はカエデって呼んで欲しいッス! これからは夫婦同然の関係になるッスから!」  一日目の時に言われた言葉にはまだ可愛げがあった物だが、一週間も経てば本性も現れてくる。何が夫婦同然の関係だ。そんな悪態をついてものらりくらりと躱されてしまうので意味は無い。  正直、殺すのは容易い。だがカエデの死によって配給が打ち止められる可能性がある。これは接待では断じて無いが、歯痒い生活を送っているのは確かだ。 「眠いッス。肩揉んで欲しいなあ」  ブランケットを全身に巻き付けて蓑の格好をして、今度は涎を微かに零している。俺は木刀の先端で肩を押し潰してやる。漏れ出る声が心底気持ち良さそうだ。 「ドラゴンフォルムに戻らないんッスか〜。早く見たいなあ、真っ赤な鱗と牙」 「……あの時お前が持ってきた肉と魚じゃ一分が関の山だ。リスみてえに溜め込まないと長くは維持出来ねえよ」 「難儀ッスね〜。あ、掃除機がぶつかってくる」  ロボット掃除機がカエデの右足を吸い込もうと何回も機体をぶつけている。遂にゴミを捕捉したのだろうか。賢い掃除機だ。このままこの馬鹿みたいな関係も吸い込んで欲しいが、それはコイツには荷が重すぎるか。  俺が龍涙を生成すれば解決する。とはいえ、そう簡単な事では無かった。長く生きてきたが、龍涙なんて物が存在するのは初耳だ。龍という種族は感情が希薄な奴が多い。故に涙なんて大層な物を流す奴は少ない、と思われる。
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