9:おしまい

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9:おしまい

 黒いしっぽが振り下ろされる。すると鉤を外された炎は、エフューの家の窯へ吸い寄せられるように、流星の如く飛んでいった。  その風を切る轟音がまた、ひどくエフューを不安にさせた。 「どうしてこんなに怖いの」 「……あの火が、戦場に生まれるものだからだろう」 「センジョウって、なぁに?」 「そうか、幼いお前は知らないか。戦というのは」 「わたし、それ……知りたくないわ」  まるで耳を塞ぐように、エフューの手はを覆った。 「どうした、エフュー。まだ詩は終わっていないぞ」 「もういや。怖いの。どうして、なんで。ここには怖いものなんて何もないのに」 「目を開けろ。真実から目を背けるな」 「いや。ルルリェも怖い。いい子じゃない」 「こんな莫迦げた街を創ったのは誰だ。お前にその名を与えたのは?」 「……知らない、知らないっ」 「知らぬふりはよせ。詠うんだ、エフュー」  大きな手に肩を揺さぶられ、恐れのあまりエフューは口から詩を零れさせた。 『尾をふり……雲ふり……知らぬふりの……』 『……姫が、微笑う』  閉ざした闇の向こうで、ルルリェは鼻で笑った。 「やはり、な。そら、見ろ。あれがお前を閉じ込めた、街の正体だ」  ルルリェの言うことすべてが不思議で、怖くて、それなのに気になって、エフューは恐る恐る指を広げた。  少女の目に馴染んだ街並みは、様相を全く異にして夜に佇んでいた。
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