21人が本棚に入れています
本棚に追加
9:おしまい
黒いしっぽが振り下ろされる。すると鉤を外された炎は、エフューの家の窯へ吸い寄せられるように、流星の如く飛んでいった。
その風を切る轟音がまた、ひどくエフューを不安にさせた。
「どうしてこんなに怖いの」
「……あの火が、戦場に生まれるものだからだろう」
「センジョウって、なぁに?」
「そうか、幼いお前は知らないか。戦というのは」
「わたし、それ……知りたくないわ」
まるで耳を塞ぐように、エフューの手は目を覆った。
「どうした、エフュー。まだ詩は終わっていないぞ」
「もういや。怖いの。どうして、なんで。ここには怖いものなんて何もないのに」
「目を開けろ。真実から目を背けるな」
「いや。ルルリェも怖い。いい子じゃない」
「こんな莫迦げた街を創ったのは誰だ。お前にその名を与えたのは?」
「……知らない、知らないっ」
「知らぬふりはよせ。詠うんだ、エフュー」
大きな手に肩を揺さぶられ、恐れのあまりエフューは口から詩を零れさせた。
『尾をふり……雲ふり……知らぬふりの……』
『……姫が、微笑う』
閉ざした闇の向こうで、ルルリェは鼻で笑った。
「やはり、な。そら、見ろ。あれがお前を閉じ込めた、街の正体だ」
ルルリェの言うことすべてが不思議で、怖くて、それなのに気になって、エフューは恐る恐る指を広げた。
少女の目に馴染んだ街並みは、様相を全く異にして夜に佇んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!